脳腫瘍:非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍

どんな病気?

非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍(AT/RT)は、主として2歳以下の乳幼児の脳や脊髄に発生する悪性脳腫瘍です。小脳など脳の下部に発生することが多いですが、脳脊髄のどこにでも発生します。AT/RTの腫瘍細胞には、特定の遺伝子異常が起こっていて、その中で最も頻度が高いのがSMARCB1の異常です。悪性脳腫瘍の中でも分裂能力がとても高く、腫瘍の増大、症状の進行が非常に速いのが特徴的です。腫瘍の発生場所によってさまざまな症状が起きますが、脳脊髄液という液体が脳から脊髄に流れる出口を腫瘍が圧迫して、流れをせき止めて水頭症という問題を起こし、頭痛や嘔吐といた症状が出ることが多いです。

どうやって診断するの?

AT/RTは急速に進行する症状とMRI検査で疑われますが、その他の悪性脳腫瘍との区別が難しく、摘出した腫瘍を病理医が検討して診断を確定します。いろいろな病理組織のパターンを示すため、遺伝子診断が重要になります。遺伝子異常によってINI-1という本来正常な細胞に存在する蛋白質が失われるため、免疫染色という病理検査の手法で、INI-1が検出されない場合に、AT/RTが強く疑われます。

どのように治療するの?

AT/RTの治療には、手術、薬物治療(化学療法)、放射線治療のすべてが有効ですが、乳幼児の脳に対する放射線治療は、重大な副作用が懸念されるため、放射線治療を行わない場合もあります。腫瘍の進行が速く、診断時に腫瘍のサイズが大きかったり、出血量が多くなったりして、初回の摘出術で腫瘍がとり切れない場合も多いですその場合には、まず化学療法を行い、腫瘍が縮んだり、出血しにくくなったりしあとで、腫瘍摘出(セカンドルック手術)を目指すこともあります。化学療法は国際的にも標準的な治療法が確立していませんが、複数の作用機序が異なる薬剤で強力に治療することや、脳脊髄液に抗がん剤を投与することや、大量化学療法という特別な薬物治療が試みられることもあります。

どれくらい治るの?合併症は?

AT/RT全体で、長期生存率は約50%です。最近正確な診断と積極的に強力な治療ができるようになり、徐々に治療成績は改善しています。一方で、AT/RTの長期生存者には、腫瘍そのものや治療によって、成長や発達などに対して、重大な好ましくない影響を及ぼすことがわかってきました。

どんな臨床試験が行われている?

現在JCCGではAT20という略称で呼ばれる臨床試験が行われています。この臨床試験では、脳脊髄液への抗がん剤投与や大量化学療法を含む強力な化学療法を行い、乳幼児の患者さんへの放射線治療の時期をなるべく遅らせて、生存率の向上と放射線の副作用の軽減を目指す臨床試験です。

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