胚細胞腫瘍は主に生殖器(精巣、卵巣)や、身体の中心線にある臓器(脳、縦隔、後腹膜)に発生します。
胚細胞腫瘍由来の細胞は、赤ちゃんの時期(胎生期)にいろいろな内臓に分化することができる能力を持った原始胚細胞という細胞が悪性腫瘍になったものと考えられています。好発年齢は10歳代から30歳代です。
小児の時期に発生する場合には、半数は生殖器以外の部位から発生しますが、青年期に発生する場合には生殖器・特に男性の精巣発生が9割以上を占めています。胚細胞腫瘍は遠隔転移があっても根治が期待できる腫瘍の1つですので、進行期であっても適切に治療を行うことが非常に重要です。
腫瘍ができた場所によって症状は異なります。
精巣にできた場合には、睾丸の痛みのない腫れとして出現することが多く、捻れを伴った場合には痛みを伴います。卵巣発生の場合には発見契機で最も多いのは腹痛ですが、次に多いのは無症状の下腹部のしこりとして見つかる場合になります。
縦隔発生の場合は胸痛、咳や動いたときの息切れなどを伴います。
仙骨発生では排尿障害やお尻のしこりとして、松果体発生の場合には頭痛、嘔吐、下垂体発生の場合には視野の異常や多尿、食欲低下、成長障害などで発見されることがあります。
日本小児がん研究グループ(JCCG)の胚細胞腫瘍委員会が、米国のグループと共同して臨床試験を開始しています。
症状があれば、部位に応じて超音波、CTやMRIなどの画像診断を行います。
胚細胞腫瘍の腫瘍マーカーとして、αフェトプロテイン(AFP)やβ-HCGが知られています。腫瘍ナーカーの上昇の程度で、病気の状況や進行度が推測できます。
胚細胞腫瘍の確定診断のためには、腫瘍の一部を採取(生検)や手術でとりきることで、病理診断を行うことが必要です。胚細胞腫瘍には以下のように、良性腫瘍、悪性腫瘍を含む様々な組織型のものが含まれていて、病理診断によって治療法が異なってきます。
・胚細胞腫(胚腫、ジャーミノーマ、セミノーマ、ディスジャーミノーマ)
・成熟奇形腫
・未熟奇形腫
・卵黄嚢腫
・絨毛癌
・胎児性癌
・混合型胚細胞腫瘍:上記の複数の成分が混じっている
精巣悪性胚細胞腫瘍は治療への反応性と治療法の違いから、セミノーマと非セミノーマ(卵巣発生や頭蓋内発生の場合にはジャーミノーマと非ジャーミノーマ)に分けられ、治療方針検討に用いられます。
抗がん剤、放射線療法、手術などを組み合わせて治療します。胚細胞腫瘍はできた場所によった担当する科が変わりますが、まれな病気なのでいろいろな状況に対応できる大きな病院で診断や治療を行うことが重要です。
精巣から発生したと考えられる場合、進行期によらず精巣の摘除術を行います。その上で、進行度や組織型に応じて、追加治療を行います。進行度が高い場合には、追加治療として、化学療法を行います。
性腺外の悪性の胚細胞腫瘍は、病期(進行期)に準じて治療を行います。化学療法が治療の主体になり、シスプラチン、エトポシド、ブレオマイシンを併用したBEP療法が最も用いられています。
奇形腫は良性腫瘍ですので、手術が治療の中心になります。ただし頭蓋内発生の場合には化学療法の後に放射線治療を行なうこともあります。
胚細胞腫瘍は抗がん剤が効きやすく、全体の治療成績は良好で、悪性のものでも80%以上の患者が長期に生存します。しかし進行した例や再発した例で治療成績は不良の場合もあります。