一過性骨髄異常増殖症(TAM)の解説

どんな病気?

一過性骨髄異常増殖症は、主に21トリソミー(ダウン症候群)のお子さんの新生児期にみられる血液の異常で、血液中に、異常な細胞(=芽球)が過剰に増えてしまう状態です。これにより血液のがんである白血病とよく似た症状を一時的に引き起こします。英語で表記した場合(transient abnormal myelopoiesis)の頭文字をとって「TAM(タム)」と呼ばれます。TAMはダウン症候群のお子さんの5~10%程度に起こるとされています。

TAMは多くの場合に自然消退することが知られており、検査値の異常が軽度の場合や、症状がない場合は治療を必要とせず、定期的に検査をしながら経過を見ることが可能です。このようにTAMが自然軽快する理由は明らかになっていません。一方で、芽球の数が著しく多い場合や症状が強い場合は、命に関わる重篤な状況になることがあります。

TAMの細胞では、ほとんどの場合にGATA1という造血に深く関わる遺伝子に異常が起きていることがわかっており、21番染色体が1本多い状態にこの遺伝子異常が加わることでTAMが発症すると考えられます。

どんな症状が出るの?

TAMでは血液中に芽球が増えます。この芽球は血液検査では白血球に数えられるため、血液検査で白血球の値が高くなります。芽球の増加のみで、症状がみられないこともよくあります。芽球の増加により肝臓や脾臓が大きくなることがあります。正常な血球(白血球や赤血球、血小板)を作る力が抑えられ、これらが低下することもあります。肝臓の機能が低下したり、腹部や胸部、心臓の周りなどに水がたまり、呼吸が苦しくなったりすることがあります。これらの症状により、命に関わる重篤な状態になることもあります。
またTAMを経験したダウン症候群のお子さんの約20%が、後に(多くは3~4歳頃まで)に真の「白血病」を発症することが知られています。

どんな検査をするの?

TAMの診断は、血液検査で行われ、末梢血に芽球が増えていることを確認することで診断されます。染色体検査により21トリソミーの有無の検索を行います。原因検索のためGATA1遺伝子の異常を調べることがあります。合併症の有無の検索のためにレントゲンやCTなどの画像検査を行います。白血病が疑われる場合は、血液を作る骨の中の状態を確認するための「骨髄検査」を行います。

どんな治療をするの?

TAMは無治療で自然に治ることが期待されますが、TAMのお子さんのうち、約20%は生後早期に重篤な状況になります。白血球の数が著しく多い場合、肝臓の機能が悪い場合、体にたまっている水が多い場合などには積極的な治療が必要になります。治療にはシタラビン(キロサイド)という抗がん剤を用います。患者さんの状態によってはステロイドという薬を用いる場合もあります。症状が重篤で、早急な対処が必要な場合には、交換輸血(血液を入れ替える処置)を行うことがあります。そのほか、呼吸や循環のサポートを行います。

どんな合併症があるの?

TAMに対してよく用いられる抗がん剤のシタラビンは、芽球だけでなく正常の血球を減少させる可能性があります。また嘔気などの消化器症状や肝障害などがみられる可能性があります。実際にはTAMに対して用いられるシタラビンの量は少量で、治療の副作用が問題となることはあまり多くありません。

どんな治療研究があるの?

現在日本国内では、
・治療対象TAM症例に対する少量シタラビン療法の有効性と安全性を評価する。
・少量シタラビン療法の微小残存病変への影響について評価する。
・TAMにおける早期死亡リスク因子や白血病発症リスク因子を同定する。
ことを目的として
「一過性骨髄異常増殖症(TAM)に対する化学療法による標準治療法の確立を目指した第2相臨床試験」(TAM-18)が行われています。

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