遺伝性腫瘍

遺伝性腫瘍について

がんを発症しやすい体質が原因で発症するがんのことを「遺伝性腫瘍」と呼びます。小児がんを発症するお子さんのおよそ10%が生まれつきがんを発症しやすい体質を持っていることが、最近の研究で分かってきました。ゲノム医療の普及により診断される機会も増えています。遺伝的要因によりがんを発症しやすい体質のことを、医学的には「cancer predisposition(がん易罹患性)」といいます。この体質は「必ずがんになる」のような明確なものではありません。遺伝性腫瘍でなくてもがんを発症する方は多くいらっしゃいますので、遺伝的な体質は「がんになる確率(リスク)が相対的に高い」という関与をしています。

遺伝性腫瘍委員会とは

最近の研究で、小児がんを発症するお子さんのおよそ10%が「遺伝性腫瘍」であることが分かってきました。しかしながら、確定診断のための遺伝学的検査や早期発見のためのサーベイランス検査などの医療体制の整備はこれからの大きな課題です。
2019年に発足した遺伝性腫瘍委員会では、遺伝性腫瘍の診断・治療・予防に関わる臨床研究を通じて、小児遺伝性腫瘍のお子さんとご家族に貢献することを目的としています。

委員長挨拶

遺伝性腫瘍委員会委員長を務めております、服部浩佳と申します。遺伝性腫瘍委員会は2017年に始まった厚労科研「小児期に発症する遺伝性腫瘍に対するがんゲノム医療体制実装のための研究」(熊本班)を前身とし、2019年に日本小児がん研究グループ(JCCG)内の委員会の一つとして発足しました。
当時を振り返りますと、2019年は固形がんを対象としたがん遺伝子パネル検査という、一度に百~三百数十個の遺伝子を調べて治療薬を探す検査が健康保険で受けられるようになった年でした。このがん遺伝子パネル検査は、治療薬があるかどうかに加えて、遺伝性腫瘍のリスクが分かる検査です。従って、遺伝子検査やがんサーベイランス、遺伝カウンセリングなどの遺伝性腫瘍に必要な医療体制が準備されていないことが問題となりました。これらの準備の第一歩として、前述の熊本班において、小児遺伝性腫瘍のガイドラインが作成されました。そしてその後の体制整備を引き継いだのが、本遺伝性腫瘍委員会です。

発足から5年目に差し掛かる遺伝性腫瘍委員会で現在遂行中の2つの臨床研究、小児遺伝性腫瘍レジストリパイロット研究(JCCG-PCPS21)とリー・フラウメニ症候群のサーベイランス試験(JCCG-LFS20)は、2019年の委員会発足当時から準備を進めてきたものです。小児遺伝性腫瘍レジストリパイロット研究は、小児がんの患者さんで遺伝性腫瘍が疑われても、検査ができないという、臨床現場からの切実な声に答えるために始まりました。実際、2024年1月現在においても、健康保険で行える主な遺伝性腫瘍の遺伝子検査注1)はRB1, MEN1, RET, BRCA1, BRCA2に留まっているのが現状です。リー・フラウメニ症候群のサーベイランス臨床試験は、がん遺伝子パネル検査の開始により、リー・フラウメニ症候群の方が多く診断されるようになったにも関わらず、サーベイランスのための全身MRI検査の特殊性や保険未収載であることから、受検出来ないという現状を打破するために開始しました。これら2つの臨床研究はまさに委員会発足当時からの遺伝性腫瘍診療における遺伝子検査の問題やサーベイランス検査の問題解決のためのものです。これらの臨床研究を遂行することを通じて、遺伝子検査やサーベイランス検査の保険診療化を目指し、最終的に小児遺伝性腫瘍の診療に貢献することを目標としています。

遺伝性腫瘍の場合に通常の小児がん診療と異なる点が一つあります。それは、対象となる方はお子さんだけではなく、ご家族も含むということです。遺伝性腫瘍の原因である遺伝子の変化は家族で共有するという性質があります。そのため小児がんを発症したお子さんが遺伝性腫瘍と確定診断された場合は、実はお子さんのごきょうだいや親御さんもがんになりやすい体質を持っているかもしれないということが分かることになります。遺伝性腫瘍のリスクが明らかになるということは、けっして恐れることではなく、予めそのリスクを知っておいて健康管理に役立てていこう、というのが今の世界の流れです。幸いにも日本を含めた世界の研究者が、遺伝性腫瘍の早期発見のための鋭敏な検査方法や、遺伝性腫瘍に選択的に効果のある治療・予防薬の開発などにしのぎを削っており、新たな知見が創出されつつあります。 遺伝性腫瘍委員会ではがんを発症したお子さんはもちろんのこと、お子さんから得られた遺伝情報をご家族の健康管理に役立てて頂けるような臨床研究を進めて参ります。お子さんに発症する遺伝性腫瘍に対して、診断・治療・予防法の開発を通じて、お子さんとご家族に貢献できることを目指しています。

注1遺伝性腫瘍と診断するための検査のことを指しており、がん遺伝子パネル検査とは異なります。


名古屋医療センター遺伝診療科
服部浩佳

委員一覧

遺伝性腫瘍委員会、支持療法委員会、長期フォローアップ委員会、造血細胞移植・免疫細胞治療委員会の委員一覧

臨床研究

活動報告

2024年1月 現在 pCPS21臨床研究新規登録中です。
2023年10月 SIOP2023国際小児がん学会において、pCPS21臨床研究の中間解析結果を発表しました。
2023年10月 第65回日本小児血液・がん学会において、LFS20臨床試験の中間解析結果を発表しました。
2023年10月 DICER1症候群の患者さん向けの説明文書を作成しました。
2023年6月 リー・フラウメニ症候群の保険病名申請が受理されました。
(電子カルテでリー・フラウメニ症候群が病名として使えるようになりました)
2023年2月 LFS20臨床試験の新規組み入れを終了しました。2024年1月現在観察継続中です。

リンク集

日本遺伝性腫瘍学会 公式サイト(旧 日本家族性腫瘍学会)
がんゲノム医療 もっと詳しく:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]
小児がん拠点病院 | 国立成育医療研究センター
がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査|国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT)
遺伝カウンセリングとは | 日本認定遺伝カウンセラー協会
登録機関遺伝子医療体制検索・提供システム
遺伝するがん【遺伝性腫瘍について】|おしえて がんゲノム医療|中外製薬
がん遺伝子パネル検査のおはなし
がんの遺伝(遺伝性腫瘍・家族性腫瘍)|原因、予防など | がん治療の情報サイト|がん治療.com
「患者さんやご家族のみなさまへ」トップへ戻る
ページトップ