血球貪食性リンパ組織球症(Hemophagocytic lymphohistiocytosis:HLH) は、白血球の一つであるリンパ球やマクロファージが過剰に活性化することにより引き起こされます。
ランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis; LCH)は、樹状細胞の一つであるランゲルハンス細胞と同じ形質をもつLCH細胞が、皮膚や骨、内臓などさまざまな臓器に集簇し多彩な症状をきたす稀な疾患です。
JCCG HLH/LCH委員会は、JCCG(日本小児がん研究グループ)内にある、小児がんの研究を行う委員会の1つです。HLH/LCH委員会では、組織球に関係した疾患(血球貪食性リンパ組織球症やランゲルハンス細胞組織球症など)について、新しい診断方法やより良い治療法の開発を行っています。
血球貪食性リンパ組織球症(HLH)は、様々な原因により免疫系の過剰な活性化から高サイトカイン血症をきたす疾患です。原因として遺伝子異常による原発性とEBウイルスなどの感染症やリンパ腫、自己免疫疾患などに続発する二次性に分けられます。原発性HLHは乳児期発症が多く、二次性HLHは全年例に発症することが知られており、二次性の原因として、日本ではEBウイルス関連HLH(EBV-HLH)が最も多いと言われています。原発性HLHは年間15-20例、二次性HLHは年間40-50例の小児が新規発症すると推定されています。
1994年にHistiocyte Society(国際組織球症学会)によってHLHに対する国際臨床試験(エトポシドとデキサメタゾンにシクロスポリンを加えた免疫化学療法)が開始されました(HLH-94: 研究代表者Henter JI)。日本からは京都府立医科大学小児科の今宿晋作先生が事務局を務めてこれに参加し、主にEBV-HLHの症例が登録されました。次いで、2004年からHLH-2004国際臨床試験が行われ、日本もこれに参加し(事務局:愛媛大学小児科 石井榮一先生[本委員会初代委員長])、HLHに対する免疫化学療法の有用性が再確認されました。この免疫化学療法を骨格とし、日本に多いEBV-HLHに対する臨床試験(EBV-HLH-15)が行われました。本試験は患者さんのリスクに応じた治療法の選択を行いました。現在、その有効性について解析を行っていますが、今後もよりより治療法の開発に努めていきます。
一方、ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)は、小児に頻度が高い病気です。15歳未満の小児における年間発生頻度は100万人あたり約5〜9人、15歳以上の患者では100万人あたり1人程度と言われています。国内で年間約80人(日本小児血液・がん学会 疾患登録 2019年調べ)が新規にLCHを発症しており、小児急性リンパ性白血病の年間新規発症者数が500人程度と推定されているのと比較して、LCHの発症率は低く、まれな病気と考えられます。
この”まれ”なLCHの診断・治療をより良いものとするために、1996年 京都府立医科大学小児科の今宿晋作先生を中心に、日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ(JLSG)が設立されました。JLSGでは、LCHを造血器腫瘍と位置づけ、その病気の程度に応じて、抗がん剤(シタラビン)とステロイドホルモンによる独自の化学療法を考案し、1996年に最初の臨床試験であるJLSG-96試験を、2002年からJLSG-02試験を行いました。日本全国のLCH患者さんや診察を担当する医師がこれらの臨床試験に参加し、治療がより良いものになるよう改良を重ねてきました。
その後、日本小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG)・日本小児がん研究グループ(JCCG)が設立され、JLSGの行ってきた臨床試験は、JPLSG/JCCG内のHLH/LCH委員会が引き継がれました。後継として計画・実施された臨床試験(LCH-12、LCH-19-MSMFB、LCH-19-Hisitio)には、多くのLCH患者さんが参加し、LCHの治療法の開発にご協力頂いています。
小児期LCHは医師や患者さんの間で認知されつつありますが、成人患者さんについては、まだ十分な診療体制が整っていない部分もあります。今後は成人の血液研究グループである成人白血病治療共同研究機構(JALSG)と協力し、成人患者さんの診療体制をより良いものにしていくことも検討しています。
「組織球症」と呼ばれる病気には、「ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)」や「血球貪食性リンパ組織球症(HLH)」などがあり、いずれも非常にまれな疾患です。そのため、診断や治療に戸惑う患者さんやご家族が多くいらっしゃることと思います。
しかし近年、世界中のLCHやHLHの患者さんから学ばせていただいた貴重な経験が、研究の大きな進歩へとつながっています。病気の原因や仕組みに迫る新たな発見や、より良い治療法の開発が次々と報告されています。特に、2024年11月には、BRAF遺伝子に変異のある組織球症に対して、分子標的治療薬のダブラフェニブとトラメチニブが保険承認され、大きな希望となるニュースとなりました
わたしたちJCCG HLH/LCH委員会では、組織球症に対してより効果的で安全な治療法を確立することを目指し、さまざまな臨床研究を進めています。小児科医、血液内科医に加え、病理医、放射線科医、統計学の専門家など、多くの分野の医師・研究者が力を合わせて取り組んでいます。また、国内外の最新の研究成果を共有しながら、より良い医療を届けられるよう日々努力を重ねています。
さらに、患者会のみなさまとも連携し、組織球症の理解を深める活動にも取り組んでいます。HLH/LCH委員会は、課題の多いこの病気の領域で、これまでにない道を切り拓き、少しでも多くの患者さんやご家族のお力になれるよう、これからも全力で活動を続けてまいります。
今後とも、温かいご支援をよろしくお願いいたします。
信州大学医学部付属病院
小児科
坂本謙一
小児HLH診療ガイドライン 2020 Vr. 1.0![]() |
小児慢性特定疾病情報センター:25. 血球貪食性リンパ組織球症![]() |
日本小児科学会:血球貪食性リンパ組織球症について(注記:EBV-HLH-15臨床試験は終了しています)![]() |
EBウイルス感染症研究会![]() |
ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)患者会![]() |
日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ(JLSG)![]() |
特定非営利活動法人 成人白血病治療共同研究機構![]() |
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いしゃまち 家庭の医療情報(LCHのページ)![]() |
小児慢性特定疾病情報センター:24. ランゲルハンス細胞組織球症![]() |
小児慢性特定疾病情報センター:26. 24及び25に掲げるもののほか、組織球症![]() |