若年性骨髄単球性白血病(JMML)は,血液中の白血球という細胞が無秩序に増えることで正常の血液が作られにくくなる、血液の悪性腫瘍(がん)のひとつです。RAS経路という、細胞のなかで刺激を伝達する仕組みの異常が多くの患者さんで関わっていることが明らかになっています。主に5歳未満の年少児に発症し、日本国内における年間症例数は10〜20人程度のとてもまれな白血病です。
ほとんどの患者さんは乳幼児期に発症し、発熱、お腹の腫れ(肝臓と脾臓の腫大)、リンパ節の腫れ、発疹、青あざ(出血斑)、顔色が悪い、体重の増えが悪いなどの症状で気付かれます。血液検査をすると白血球の増加、貧血、血小板の減少などの異常が認められます。しかし、これらはJMML以外の病気の患者さんでもしばしば認められるため、診断がとても難しい病気です。
血液検査では、白血球の増加、とくに単球という細胞の増加や、通常ではみられない若い血液細胞の出現が特徴的です。貧血や血小板の減少もよく認められる異常です。詳しい検査では、ヘモグロビンFの増加が診断の参考になります。
血液の病気では、骨髄を直接採取して調べる骨髄検査が診断を決めるうえで重要ですが、JMMLでは骨髄球系に分類される細胞が増えている以外に特徴的な所見があまりありません。しかし、他のタイプの白血病を除外するうえでも骨髄検査が必須です。また、骨髄の細胞でコロニーアッセイ法という特殊な検査を行い、「GM-CSFへの高感受性」が認められることが診断の参考になります。
血液もしくは骨髄の染色体検査では、7番染色体が1本減っていることや、その他の異常が確認されることがあります。また、JMMLに特徴的な遺伝子の変異(RAS経路に関わるPTPN11, NRAS, KRAS, NF1, CBL遺伝子など)が約90%の患者さんで検出されるため、遺伝子検査も診断の大きな助けになります。
JMMLには、固形がんなどとは異なり、ステージによる分類はありません。病気の経過はさまざまで、比較的穏やかな経過を辿り最低限の治療で症状の改善を認める患者さんもいれば、急速に進む臓器障害が命に関わる患者さんもいます。診断されたときの特徴(年齢、ヘモグロビンFの値、血小板数)や検出された遺伝子変異の種類が、病気の治りやすさ・治りにくさと関連していることが報告されています。
多くのJMMLの患者さんでは、抗がん剤や造血細胞移植(以下、移植)による治療を行わなければ、臓器障害(呼吸の状態や腎臓の機能が悪くなったり、出血しやすくなったりすること)が進行して命を落としてしまいます。ごく一部に比較的安定した経過で自然に治ってしまう患者さんがおられることも知られていますが、根治のための移植がほとんどの患者さんで必要になると考えられています。
JMMLに対する移植を含めた治療の成績は、未だ十分に満足できるものではありません。日本国内で2000年から2011年に行われた移植例の報告では、一番成績の良かった3つの薬剤(ブスルファン、フルダラビン、メルファラン)の組み合わせによる前処置を用いた患者さんでも、5年後の全生存率は73%にとどまっています。また、2011年から2017年に日本国内で行われた前向き臨床試験(JPLSG JMML-11)でも、同じ前処置で移植した患者さんの3年後の全生存率は63%という結果でした。
JMMLでは、移植の前の治療を工夫して、病気の状態をより落ち着かせることも大切と考えられます。そこで現在、日本小児がん研究グループでは、JMMLの患者さんに対する化学療法として、抗がん剤であるアザシチジンの有効性と安全性を評価する前向き臨床試験(正式名称:若年性骨髄単球性白血病に対するアザシチジン療法の多施設共同非盲検無対象試験:JPLSG JMML-20)を行っています。