小児の腎臓に発生する腫瘍は、日本では年間70〜100例程度が発症しています。その80%は腎芽腫(ウイルムス腫瘍)という組織型で、3歳未満の乳幼児に多く発症します。その他、稀な組織型として腎明細胞肉腫、腎ラブドイド腫瘍、腎細胞癌、間葉芽腎腫があります。
JCCG腎腫瘍委員会(Renal Tumor Committee, JCCG-RTC)とは,JCCG(日本小児がん研究グループ)における腎腫瘍に関する研究グループです。
2025年度より日本小児がん研究グループ腎腫瘍委員会の委員長に就任した日本大学小児外科の上原秀一郎です。
小児腎腫瘍のうち、ウィルムス腫瘍(腎芽腫)が最も頻度が高いものの、日本での発症数は年間40-50例程度と比較的稀な疾患です。このウィルムス腫瘍の治療成績は、欧米の大規模な多機関臨床研究により大きく改善しました。本邦では1996年に日本ウイルムス腫瘍研究グループ(JWiTS)が設立され、1996 年から 2005 年にかけて観察研究「JWiTS-1」を、続いて 2006 年から 2015 年には「JWiTS-2」を実施し、欧米の治療成績と同等水準の成果を達成してきました(Pediatr Surg Int. 2009;25:923–9、Pediatr Blood Cancer. 2018;65(7):e27056)。特にウィルムス腫瘍に関しては、生存率が全体で約 90%に達するまでに向上しており、今後の課題はいかにして治療関連有害事象を減らし、患者さんのQOL を考慮した治療戦略を確立するかにあります。
JWiTS の活動は2015年以降、現在も日本小児がん研究グループ腎腫瘍委員会(JCCG-Renal Tumor Committee: JCCG-RTC)へと継承されており、より洗練された治療開発と臨床研究を継続しています。
一方で、集学的治療による成績の向上にも関わらず、予後不良の患者さんが15%-20%程度にみられることが分かっており、小児腎腫瘍のさらなる治療成績の向上のためには、予後不良群に対しては治療強度を最大限増加することで生存率を向上し、予後良好群に対しては治療の軽減化による晩期障害の回避を図ることが重要です。そのためには、従来の知見に加えて、遺伝子変異を含む分子生物学的な予後因子を見出すことにより、層別化された新しいリスク分類に基づく至適治療の開発が急務です。
このような背景から、分子遺伝マーカー、国際基準による病理組織診断と組織学的リスク分類、国際的に標準化した画像診断と読影結果等を取り入れた国際小児がん学会の国際共同臨床研究 (SIOP Umbrella protocol)が開始され、日本も2022年よりこの研究に参加して、小児腎腫瘍の治療研究を進めています。2024 年 12 月時点で、UMBRELLA-J には全国 71 施設が参加しており、今後はさらなる患者さんの蓄積と、蓄積データに基づいた詳細な解析が必要であり、国内外における小児腎腫瘍の治療最適化を目指していきたいと考えています。
日本大学医学部外科学系小児外科学分野 教授
上原 秀一郎
2023年10月 | SIOP-RTSGメンバーとPathology Review Meeting![]() |
---|---|
2023年10月 | SIOP2023においてJWiTS治療研究における再発腎腫瘍54例の治療成績、ウィルムス腫瘍の外側伸展による外科的リスクについて、それぞれ報告しました。 |
2023年9月 | 第65回日本小児血液・がん学会学術集会において、JWiTS/JCCG研究に登録されたRhabdoid tumor of the kidneyの後方視的調査、腎芽腫におけるテロメア伸長とテロメラーゼ非依存的テロメア維持機構の解析について、それぞれ報告しました。 |
2022年12月 | UMBRELLA-J研究への登録を開始しました。 |