一過性骨髄異常増殖症は、主に21トリソミー(ダウン症候群)のお子さんの新生児期にみられる血液の異常で、血液中に、異常な細胞(=芽球)が過剰に増えてしまう状態です。これにより血液のがんである白血病とよく似た症状を一時的に引き起こします。英語で表記した場合(transient abnormal myelopoiesis)の頭文字をとって「TAM(タム)」と呼ばれます。TAMはダウン症候群のお子さんの5~10%程度に起こるとされています。
一過性骨髄異常増殖症(Transient Abnormal Myelopoiesis: TAM)は、主にDown 症候群の新生児にみられる一過性の血液の異常です。当初は自然に軽快する予後良好な疾患と考えられていましたが、一部に重症化し早期死亡に至る患者さんがいること、また、自然に軽快した後、数年以内に白血病を発症する患者さんがいることが判明し、予後は必ずしも一様ではないことが分かってきました。
TAM委員会は、どのような患者さんが重症化しやすいのか、早期死亡を防ぐ治療法は何か、どのような患者さんが白血病を発症しやすいのか、予防することはできないのか、などといった疑問に答え、TAM患者さんの治療成績や生活の質を改善するために、様々な取り組みを行っている委員会です。2011年から開始された臨床試験TAM-10では、白血球数高値、低出生体重、直接ビリルビンの高値などが早期死亡と関連しており、白血球数の多い患者さんに対して少量シタラビン療法が有効であることを明らかにしました。また、診断から3か月後の時点で、血液に微量の異常細胞が残っていることが、将来の白血病の発症に関連していることを明らかにしました。現在、早期死亡の危険がある患者さんに対する最適な治療法を確立するために、臨床試験TAM-18を行っています。
2021年4月にTAM委員会の委員長を拝命いたしました弘前大学小児科の照井君典と申します。
これまで、初代委員長の菊地陽先生(帝京大学小児科)、2代目委員長の渡邉健一郎先生(静岡県立こども病院血液腫瘍科)を中心として活発に行われてきた委員会活動を、しっかり維持、発展させていきたいと思います。
一過性骨髄異常増殖症(Transient Abnormal Myelopoiesis: TAM)は、主にDown 症候群の新生児にみられる疾患で、血液の中で異常な細胞(芽球)が一過性に増殖します。血液検査をしなければ気付かれない軽症の患者さんから、白血球が異常に増えて、肝臓や脾臓が腫れ、肝臓、心臓、肺などの重要な臓器の働きが悪くなり命に関わる重症の患者さんまで、重症度は様々です。TAMの芽球は、血小板のもとになる巨核球という細胞の性質を持っていて、造血に重要な働きをしているGATA1という遺伝子の異常がみられることが分かっています。ほとんどの患者さんは3か月以内に自然に軽快しますが、そのうち約2割の患者さんは4歳くらいまでの間に白血病を発症します。この白血病もやはり巨核球の性質とGATA1遺伝子の異常を持っていて、TAMとこの白血病(専門的にはDown症候群関連骨髄性白血病、ML-DSといいます)は、一連の疾患であると考えられています。
これまで、どのような患者さんが重症化しやすいのか、早期死亡を防ぐ治療法は何か、どのような患者さんが白血病を発症しやすいのか、予防することはできないのか、などといったことについては十分に分かっていませんでした。しかし、国内外で行われた臨床研究により、少しずつ答えがみつかってきています。TAM委員会では、2011年から2014年まで観察研究TAM-10を行い、167人の患者さんに参加していただきました。その結果、白血球数高値、低出生体重、直接ビリルビンの高値などが早期死亡と関連していること、白血球数の多い患者さんに対して少量シタラビン療法が有効であることが明らかになりました。また、診断から3か月後の時点で、血液にわずかな芽球(微小残存病変)が残っていることが、将来の白血病の発症に関連していることが明らかになりました。現在も、TAM-10登録患者さんのうち、肝障害・肝不全を合併した患者さんや、血小板が異常に増加した患者さんについて解析を行っているほか、様々な炎症性物質(サイトカイン)と患者さんの状態との関連、少量シタラビン療法以外の治療法(全身ステロイド療法、交換輸血など)の有用性などについて、研究を継続しています。また、GATA1遺伝子の異常の種類や数と、患者さんの状態や白血病の発症との関連についても研究を進めています。
2019年8月からは、白血球の数が10万以上に増加した患者さんに対して、シタラビンという抗がん剤の量や投与方法を定めた化学療法(少量シタラビン療法)を行うことにより、早期死亡の危険がある患者さんに対する最適な治療法(標準治療)を確立することを目的とした介入試験TAM-18を行っています。TAM-18に参加すると、日常診療では行うことができない特殊な検査を中央検査・中央診断として受けることができます。具体的には、診断時のGATA1遺伝子の検査や、診断後1か月時、3か月時の微小残存病変の検査などです。また、将来白血病を発症する危険性が高いと考えられる患者さんを対象として、白血病の予防を試みる臨床試験についても現在準備しているところです。
また、TAMが起こる仕組みや、自然に軽快する仕組み、白血病に進展する仕組みについても十分解明されたとはいえません。これまでの研究により、21番染色体が1本多い状態(トリソミー21)とGATA1遺伝子の異常の組み合わせによりTAMが発症すること、自然に軽快した後も少しだけ残っていたTAMの芽球に何種類かの別の遺伝子の異常が加わり白血病を発症することが分かってきました。TAMは自然に軽快する性質を持っていることから、本当のがんの一歩手前、前がん病変と考えることもできます。TAMから白血病に進展する仕組みを解明することは、ほかのがんが起こる仕組みを理解することにも役立つと考えられます。臨床研究と共に、基礎的な研究にも力を入れていきたいと思っています。
弘前大学大学院医学研究科小児科学講座
照井君典
2023年10月 | 第65回日本小児血液・がん学会において、TAM-10 臨床試験におけるサイトカイン解析の臨床的意義について発表しました。 |
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2023年10月 | 第65回日本小児血液・がん学会において、TAM-10 臨床試験における2種類のGATA1変異を持つTAMの臨床的特徴について発表しました。 |
2021年11月 | 第63回日本小児血液・がん学会において、TAM-10 臨床試験におけるサイトカイン解析の結果について発表しました。 |
2021年5月 | TAM-10臨床試験の結果がLeukemia誌に掲載されました。 |
2019年11月 | 第61回日本小児血液・がん学会において、TAM-10臨床試験の結果を発表しました。 |
2019年8月 | TAM-18臨床試験を開始しました。 |