異物が体に入ってきたときに排除して体を守る力を“免疫”と言い、免疫を担当する細胞を免疫細胞と言います。免疫細胞治療は、もともと人に備わっているこの免疫細胞の力を利用してがんや自分の体を攻撃する細胞、そして病原体を撃退する治療法です。
免疫細胞治療では、既に蓄えてある他人の免疫細胞や、患者さん自身の免疫細胞を採取・改変して増殖させた細胞を、患者さんの体内に注入します。これにより、がん細胞や感染症への攻撃力が強化され、これらの病気の進行を抑制することが期待されます。これまでの抗がん剤を用いた治療のようにがん細胞以外の正常細胞を攻撃してしまう治療ではないうえに、もともと人に備わった免疫力を利用して行う治療なので、抗がん剤が効かなくなってしまった患者さんにも効く可能性がありますし、副作用や長期的な合併症も少なく済むのではないか、と期待されています。
免疫細胞を調製する細胞(間葉系幹細胞)を使って急性移植片対宿主病(GVHD)を治療する細胞療法(テムセル)も、保険診療で使用することが出来る細胞療法の一つですし、造血細胞移植を輸注した細胞が患者さんの白血病細胞を攻撃する場合は、広い意味では免疫細胞治療とも考えられますが、現在、国内で保険診療として受けることができる免疫細胞を用いた治療は、キメラ抗原受容体遺伝子(CAR)-T細胞(以下ではCAR-T細胞療法と呼びます)のみですので以下ではCAR-T細胞療法について説明します。
免疫細胞の一つである“T細胞”には、がん細胞を攻撃する性質があります。CAR-T細胞療法は、患者さんからT細胞を採取し、特定のがん細胞を標的として攻撃させるため“CAR”と呼ばれる分子を作り出すように遺伝子を改造します(これを遺伝子改変と言います)。CARを発現したT細胞のことをCAR-T細胞と呼び、CAR-T細胞は特定のがん細胞を探知し、攻撃する能力を持つようになります。
CAR-T細胞療法にはこれまでのがん治療にないステップがあり、主に以下の4つになります。それぞれのステップに医師のみでなく多くの医療者、製薬関係者が関わります。
①採取: 患者の血液からT細胞を採取(アフェレーシスと言います)して作成施設に輸送します。
②改変・増幅: 送られてきたT細胞に特定の遺伝子を導入し、がん細胞に対する反応性を向上させます。改変されたT細胞を体外で増殖させ、数を増やします。
③リンパ球除去療法:輸注するCAR-T細胞が体の中でしっかりと増える事が出来るようにあらかじめ3-4日かけて抗がん剤を投与します。
④注入: 増殖させたCAR-T細胞を患者に輸注し、がん細胞の目印を探しながら攻撃するようになります。
CAR-T細胞療法は高い効果が望まれる一方で、残念ながら全ての患者さんに効果があるわけではありません。また一時的に効果があったとしても再発する場合もあります。
さらにはこれまでの治療では経験してこなかった副作用も考えられます。例えば、免疫細胞を刺激するために全身に強い炎症症状(サイトカイン放出症候群(CRS)と呼びます)が起こることがあります。CRSでは例えばインフルエンザにかかったときのように熱が出て、重症になると血圧が下がったり呼吸が傷害されたりすることがあります。このほかにも、神経系への影響や感染症、ガンマグロブリン低下などの副作用も報告されています。副作用が出たときは炎症を抑えて症状を和らげる治療をしますが、症状が全く出ない人から重症で命に関わる人まで症状の出方も様々です。
体に輸注したCAR-T細胞は数ヶ月くらいで消失すると考えられていますが、新しい治療法なので長期的にどの様な症状が出るかはわかっていないこともあり、定期的なフォローアップと注意深いケアが必要です。
免疫細胞治療は比較的新しい治療法であり、その適用は患者ごとの状態によります。また保険に収載されていない免疫細胞療法を謳った治療の中には科学的な根拠に乏しく、その効果が医学界では認められていないものも存在します。担当医との十分な相談を通じて、治療のリスクと効果について理解を深め、最良の選択を見つけることが重要です。