造血幹細胞移植は、化学療法や放射線治療による移植前処置の後に採取した造血幹細胞を投与することにより、正常な造血機能や免疫機能を回復させ、腫瘍細胞を根絶することなどを目的とした治療法です。
異物が体に入ってきたときに排除して体を守る力を“免疫”と言い、免疫を担当する細胞を免疫細胞と言います。免疫細胞治療は、もともと人に備わっているこの免疫細胞の力を利用してがんや自分の体を攻撃する細胞、そして病原体を撃退する治療法です。
この委員会の目的は、化学療法や放射線治療など他の治療のみでは治癒する見込みが低い難治性の悪性疾患の小児患者さんに対する根治治療として、有効で安全な造血細胞移植や免疫細胞療法に関係した治療法を提供することです。
具体的には
① 臨床試験を実施して新しい移植前処置や合併症の予防法・治療法の効果を調べて、標準的な移植治療を開発する
② 調査研究を実施して様々な病気に対する移植成績を振り返って解析し、新しい移植法や合併症に対する予防法・治療法の開発に役立つデータを作成する
③ 造血細胞移植に関するマニュアルやガイドラインを作成して、全国の小児患者さんが同じ医療水準の移植治療を受けられる体制づくりに協力する
などの活動を実施しています。
また、最近さかんに開発が進んでいる免疫細胞療法についても小児患者さんに対して臨床試験を実施する体制作りを進めています。
委員会の沿革は以下の通りです。
2008年5月 | 日本小児がん研究グループ(JPLSG)に造血細胞移植委員会を設置、初代委員長に矢部普正先生が就任 |
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2014年6月 | 二代目委員長に加藤剛二先生が就任 |
2016年6月 | 固形腫瘍の疾患委員会メンバーが委員会に参加 |
2019年6月 | 三代目委員長に梅田雄嗣が就任 |
2021年8月 | 委員会の名称が「造血細胞移植委員会」から「造血細胞移植・免疫細胞療法委員会」に変更 |
京都大学小児科の梅田雄嗣です。初代委員長 矢部普正先生(2008年5月~)、二代目委員長 加藤剛二先生(2014年6月~)の後を継いで2019年6月にこの委員会の三代目委員長に就任しました。
この委員会は2008年に前身の造血細胞移植委員会が日本小児がん研究グループ(JPLSG)に設置されたことが始まりです。その当時は血液悪性疾患の疾患委員会がそれぞれ独自に移植法を決定していたため、「造血細胞移植の標準化」を目標として活動を開始しています。各臨床試験プロトコールの造血細胞移植に関連した内容を横断的に統合するため、2010年には「小児造血細胞移植臨床試験プロトコールマニュアル(第1班版)」が作成されました。このプロトコールマニュアルは現在も改訂を繰り返して作成されており、全国の医療機関で使用されています。
以後、移植医療は着々と進歩し、治療成績を改善するために様々な移植法が登場しています。例えば抗胸腺細胞免疫グロブリン(ATG)や移植後大量シクロフォスファミドを用いたGVHD予防や感染対策など支持療法の進歩により、非血縁ドナーだけでなくHLAが2抗原以上違う血縁ドナーからの同種造血細胞移植(ハプロ移植)も実施できるようになっています。また、一部の病気では、移植後にも分子標的薬(※病気の原因となっている特定の分子にだけ作用するように設計された薬剤です)などの治療を続けると再発率が低下することが知られています。一方、全身放射線(TBI)を省くか照射する線量を減らし、ブスルファンという抗がん剤の使用を避けた適度な強さの移植前処置(強度減弱移植前処置)を用いることにより、晩期合併症を減らすことが期待されています。この委員会では日本の小児患者さんでこれらの新しい治療効果があるかを確認するため、以下の3つ臨床試験を実施しています。
1)JPLSG-AML-SCT15試験:寛解状態の急性骨髄性白血病(AML)に強度減弱移植前処置を用いた同種造血細胞移植の試験です。
2)JPLSG-Haplo-SCT16試験:難治性の急性白血病にATGを含む強力なGVHD予防を用いたハプロ移植の試験です。
3)JPLSG-SCT-ALL-BLIN21試験:移植後再発するリスクが高いB前駆細胞性急性リンパ性白血病の同種造血細胞移植後にブリナツモマブという分子標的薬(※B細胞の表面に発現しているCD19を標的とする抗体薬です)の点滴治療をする試験です。
これらの試験を必ず成功させ、造血細胞移植が必要な小児患者さんにより良い移植医療を提供していきます。
また、以下のような調査研究を実施しています。
1)造血細胞移植後の成長ホルモン療法
2)Covid-19が造血細胞移植の移植成績や実施体制に与える影響
3)国内で移植後大量シクロフォスファミドを用いたハプロ移植の実態調査
これらの調査の解析結果を基に、今後も新しい薬剤や移植技術を取り入れた新しい臨床試験を行っていきたいと考えています。
2014年12月にJPLSGと様々な小児固形腫瘍の治療研究グループが一つとなり、日本小児がん研究グループ(JCCG)としてスタートしました。2016年6月には固形腫瘍の疾患委員会の先生がこの委員会に加わりました。また近年、分子標的薬や(CAR-T細胞(腫瘍細胞の表面に発現している分子と結合して増殖し、腫瘍細胞を攻撃するように遺伝子操作されたTリンパ球です)などの免疫細胞療法など様々な新しい治療法が実臨床で用いられるようになり、同種造血細胞移植の適応も大きく変化してきています。この委員会にはCAR-T療法の開発や臨床現場での使用に関わるエキスパートの先生が数多く参加しており、2021年8月にはこれまでの「造血細胞移植委員会」から「造血細胞移植・免疫細胞療法委員会」に変更しました。
委員会の発足当時は12名だったメンバーも現在は24名にまで大幅に増員されました。今後は造血細胞移植全般(同種造血細胞移植及び固形腫瘍に対する自家造血細胞移植)と免疫細胞療法をこの委員会の大きな二つの柱とします。そして、委員会内だけにとどまらず、JCCGの他の疾患委員会、小児外科、脳神経外科、整形外科、血液内科、放射線科、病理診断科、基礎研究者、生物統計家などの先生方としっかり連携して、小児患者さんに有効でかつ晩期合併症も含めた安全性の高い治療ができるように活動を進めて行きます。
京都大学大学院医学研究科
梅田雄嗣
2023年12月 | JPLSG-AML-SCT15試験の患者登録が終了しました。 |
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2023年8月 | JPLSG-Haplo-SCT16試験の患者登録が終了しました。 |
2023年5月 | 第71回日本輸血・細胞治療学会学術総会において、Covid-19が造血細胞移植の実施体制に与える影響を調査した「小児造血細胞移植施設における細胞凍結保存についてのアンケート調査」の結果を発表しました。 |
2023年4月 | BMJ Open誌にJPLSG-SCT-ALL-BLIN21試験のプロトコール紹介の論文が掲載されました。 |
2022年3月 | JPLSG-SCT-ALL-BLIN21試験を開始しました。 |
2021年10月 | Kurume Med J誌にJPLSG-Haplo-SCT16試験のプロトコール紹介の論文が掲載されました。 |
2019年10月 | Pediatr Blood Cancer誌にAML-05試験の高リスク群の同種造血細胞移植の移植成績を報告しました。 |
2019年8月 | JPLSG-Haplo-SCT16試験を開始しました。 |
2017年7月 | JPLSG-AML-SCT15試験を開始しました。 |