慢性骨髄性白血病(CML)は、血液のもとになる造血幹細胞が、異常に、しかも無制限に増えてしまう(“がん化“する)病気の一種です。「フィラデルフィア(Ph)染色体」という異常な染色体が造血幹細胞内に発生し、その異常染色体を持ちながら分化・成熟した白血球が、大量に増殖します。CMLでは、これらPh染色体を持った細胞をまとめて「白血病細胞」と呼びます。Ph染色体には「BCR::ABL1遺伝子」という異常な遺伝子があり、この遺伝子から作られる「BCR::ABL1蛋白」にエネルギーの元になるATPという物質がくっつくと細胞増殖のスイッチが入り、白血病細胞がどんどん増えて病気として発症します。
成人の患者さんでは、検診などで偶然白血球や血小板の増加がみつかり診断されることがありますが、小児の患者さんの多くは症状が出てから診断されます。自覚症状としては、疲れやすい・だるい・おなかが張る・おなかの痛みなど、身体所見としては、体重減少や肝脾腫などを認めます。脾臓の腫れは特によくみられる症状です。進んだ病期で診断された場合は、高熱や出血といった急性白血病のような症状や、からだのどこかに腫瘤が認められることがあります。
診断時の血液検査での白血球数は、成人では数万/μlほどなのに対し、小児では20~30万/μlほどにまで増えていることがあります。急性白血病のような1種類の白血病細胞だけではなく、いろいろな成熟段階の白血球が見られるのが特徴です。血小板数も増加することが多いのですが、一方で赤血球は減少し、貧血になります。血液検査の結果で病気の進み具合(病期)が決まります(表1)。
診断は、血液中あるいは骨髄血中にPh染色体、BCR::ABL1遺伝子を確認することで確定します。
臓器が腫れていないかどうか、骨髄外に腫瘤がないかどうかなどを調べます。
慢性骨髄性白血病(CML)は、慢性期 (chronic phase : CP)、 移行期 (accelerated phase : AP)、急性転化期 (blast phase : BP) の3段階の病期に分類されます(表1)。多くが慢性期で診断されますが、適切な治療をしないと、3〜5年で移行期あるいは最終的には急性転化期へと進行し、急性白血病のような生命にかかわる病状に至ります。
治療は、チロシンキナーゼ阻害剤(tyrosine kinase inhibitor: TKI)という飲み薬です。TKIは、「BCR::ABL1遺伝子」から作られる「BCR::ABL1蛋白」のATPがくっつく場所に入り込むことで蛋白の働きを邪魔し、異常な細胞増殖を止めることができます。血液検査での「BCR::ABL1融合遺伝子定量」が、治療効果の確認に使われます。治療効果は血液学的、細胞遺伝学的、分子遺伝学的指標に従って判定され(表2)、「至適奏効 (optimal response)」の維持を目標とします(表3)。「不成功 (failure) 」あるいは副作用のために続けられない「不耐容」と判断された場合には、治療を変更します。薬がうまく効き、「分子遺伝学的大奏効(Major molecular response : MMR))に到達し維持できれば、病気のない人と同じ寿命が得られます。
現在、小児の第一選択薬としては、第1世代TKIのイマチニブ、第2世代TKIのニロチニブとダサチニブの三種類が使用できます。新たなTKIもさまざま開発されていますので、今後小児でもTKIの選択の幅が拡がることが期待されます。
慢性期を維持していれば通常の日常生活を送ることができますが、治療効果判定のために定期的な通院が必要です。効果が不十分な場合は、きちんと服薬できているかを確認します。薬の副作用(有害事象)は種類によって異なります。イマチニブでは筋肉や骨の痛み、ダサチニブでは血球減少や筋肉痛、ニロチニブでは肝機能異常などが認められることがあります。何年にもわたって服薬し続けることによる有害事象、とりわけ二次性徴期前からの内服では成長障害がほぼ必発で、小児特有の重要な問題とされています。
近年、TKIでMR4.0以上の「深い分子遺伝学的奏効(DMR)」が得られ(表2)、それを一定期間維持できた大人の患者さんのなかには、内服を中止することができる人がいることがわかりました。内服期間をなるべく短くしたい年齢の若い患者さんでは、TKI治療なしに寛解を維持する「Treatment free remission: TFR」を得ることが、慢性期CMLの新しい治療目標になっています。現在、小児でも大人と同じように薬を中止することができるかどうかの研究が進んでいます。
一方、同じ慢性期でも、TKIの効果が不十分、あるいは「不耐容」のために内服を続けられない患者さんもいます。TKIを数種類試してもうまくいかない患者さんでは、同種造血細胞移植(HCT)が検討されます。急性白血病の病態を呈する急性転化期の患者さんには、化学療法とTKI内服を組み合わせた治療を行いますが、治療で慢性期に至っても、治癒のためにはその後速やかな同種HCTが推奨されます。
慢性期 (CP) | 以下の移行期, 急性転化期以外のもの |
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移行期 (AP) | 以下のいずれかに該当するもの 1. 末梢血もしくは骨髄中の芽球15〜29%, または末梢血もしくは骨髄中の芽球と前骨髄球の割合が計30%以上 (芽球30%未満) 2. 末梢血中の好塩基球の割合が20%以上 3. 治療に無関係の血小板減少(10万/μL未満) 4. 染色体異常 付加的な染色体異常の出現(major route) |
急性転化期(BP) | 以下のいずれかに該当するもの 1. 末梢血あるいは骨髄中での芽球30%以上 2. 髄外浸潤 髄外病変の出現 |
血液学的奏効 (Hematologic Response: HR) |
血液・骨髄検査所見および臨床所見 血液学的完全寛解(CHR): 以下の全項目を満たす ・白血球数<10,000/μL ・血小板数<450,000/μL ・白血球分画の正常化(幼若顆粒球の消失かつ好塩基球5%未満) ・脾腫(触診)の消失, 髄外病変なし |
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細胞遺伝学的奏効 (Cytogenetic Response: CyR) |
骨髄有核細胞中のPh染色体(BCR::ABL1)陽性率 細胞遺伝学的非(none)奏効: No CyR >95% 細胞遺伝学的小(minimum)奏効: Mini CyR 66~95% 細胞遺伝学的小(minor)奏効: Minor CyR 36~65% 細胞遺伝学的大(major)奏効:MCyR 0~35% 細胞遺伝学的部分(partial)奏効: PCyR 1〜35% 細胞遺伝学的完全(complete)奏効: CCyR 0% |
分子遺伝学的奏効 (Molecular Response : MR) |
BCR::ABL1IS遺伝子レベル(RT-PCR法) 注1) 分子遺伝学的大(major)奏効:MMR ≦0.1% 分子遺伝学的に深い(deep)奏効:DMR MR4.0. BCR::ABL1IS ≦0.01% MR4.5. BCR::ABL1IS ≦0.0032% MR5.0 BCR::ABL1IS ≦0.0001% |
注1) BCR::ABL1IS:国際指標(international scale)で補正された値 |
判定時期 | 至適奏効 Optimal |
要注意 Warning |
不成功 Failure |
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治療開始時 | 高リスク注1) あるいは Ph+細胞の高リスク付加的染色体異常 | ||
開始後3カ月 | BCR::ABL1IS ≦10% | BCR::ABL1IS >10% | BCR::ABL1IS >10% (3か月以内で確定した場合) |
開始後6カ月 | BCR::ABL1IS ≦1% | BCR::ABL1IS >1~10% | BCR::ABL1IS >10% |
開始後12カ月 | BCR::ABL1IS ≦0.1% | BCR::ABL1IS > 0.1~1% | BCR::ABL1IS > 1% |
開始後12カ月 | BCR::ABL1IS ≦0.1% | BCR::ABL1IS > 0.1~1% | |
その後、 時期を問わず |
BCR::ABL1IS ≦0.1% | BCR::ABL1IS > 0.1~1% | BCR::ABL1IS > 1%, BCR::ABL1のTKI耐性変異, Ph+細胞の高リスク付加的染色体異常 |
治療方針 | 変更不要 | より頻回にモニタリングを継続し, 反応不良の場合には治療変更を要する | 治療変更 |
注1) EUTOS long-term survival (ELTS) スコアによる評価(小児での評価は未確認) |
小児のCMLでは、初発時の第一選択薬として、イマチニブの他に第2世代TKIのダサチニブとニロチニブが使用できます。イマチニブより第2世代TKI の方がより早く効果が現れることは明らかになっていますが、第2世代同士でどちらがより第一選択薬としてふさわしいかはわかっていません。CML委員会では、初発時慢性期あるいは移行期の患者さんを対象とした、ダサチニブとニロチニブのランダム化比較試験(CML-17)を2018年から行なっています。2024年3月で新規の患者さんの登録は終了しますので、2年間の観察期間ののちには結果の一部をお示しできる予定です。
また、小児の患者さんを対象として世界に先駆けておこなったTKIの中止試験(STKI-14)では、成人の患者さんの結果と同様に、登録患者さんの半数がTKI中止に成功しました。この結果をもとに、次はTKI減量を一定期間先行させる中止試験を計画しています。先行試験のTKI中止条件より早めの時期に減量開始を設定することで有害事象を減らせる可能性があり、さらにその後の中止を減量TKIでもDMRを維持できた患者さんに限定することで、成功率をあげることができると期待しています。