慢性骨髄性白血病(CML)は、血液のもとになる造血幹細胞が、異常に、しかも無制限に増えてしまう(“がん化“する)病気の一種です。
JCCG CML委員会とは、JCCG(日本小児がん研究グループ)のなかの、慢性骨髄性白血病(CML)のよりよい治療を考える研究グループです。
CMLは成人に多い病気で、日本では、年間約1,000人の成人の患者さんが新たに診断されるのに対し、小児の患者さんは20人程度で、小児白血病のなかでもその数は全体の2〜3%にすぎません。患者さんが少ないためまとまったデータがほとんどないことと同時に、病気の主な原因である遺伝子異常は成人と同じであることから、小児の患者さんでも成人の指針をもとにした診療が行われています。ですが、成人の指針を小児にあてはめることが本当に正しいのかどうか、その明らかな証拠はありません。小児のCMLは、成人より活動性の高い病態を示すと言われています。少ないながらも小児に限定された臨床試験の結果や、遺伝子検査の進歩に基づく新しい知見をもとに、小児に特化した治療管理の指針公表が望まれています。
CML委員会は、前身の小児CML研究会を受け継ぐ形で、2006年にJPLSGのCML委員会として活動を開始しました。後方視的研究CML-11でTKIの黎明期の小児CMLの実態を把握しつつ、2009年から行なった10年間にわたる前方視的観察研究CML-08では、TKI時代における小児のCMLの現状を明らかにしました。また、世界に先駆け小児の患者さんのみでのTKIの中止試験STKI-14を行い、内外に高く評価されています。現在、小児患者さんに対する第2世代TKIのより適切な選択推奨を目指し、ダサチニブとニロチニブのランダム化比較試験CML-17を行っています。
今後は、新たなTKI中止試験等の臨床試験の計画立案の他、既存の検体を利用した分子遺伝学的研究、また、小児ではさらに極めて稀ですが、CMLの類縁疾患である骨髄増殖性腫瘍の研究なども行っていく予定です。
かつてCMLにはインターフェロンが治療薬として使われていましたが、それだけでは病気の進行を抑えることはできませんでした。1990年代には造血幹細胞移植が導入され、成功すれば治癒することも可能になりましたが、移植の合併症や再発で亡くなる患者さんも少なくありませんでした。2000年代に入り、最初の分子標的治療薬となる第1世代チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)のイマチニブがCMLの慢性期の患者さんたちに使われ始めると、CMLの治療成績は劇的に改善しました。大半の患者さんが、薬の内服を続けることで症状のない慢性期のままで過ごせるようになったのです。成人患者さんで著効したイマチニブは、まもなく小児の患者さんにも使われるようになり、やはりとても良く効くことがわかりました。
現在、イマチニブの導入から約20年を経て、新規TKIの開発も進み、また、血液中の標的遺伝子の検査方法が標準化されたことで、TKIの効果判定も確実になりました。今では、複数のTKIからより適切な薬を選択すること、長期内服による有害事象を減らすべくTKIの減量や中止の可能性を模索することなどが課題になっています。このように、TKIがよく効く患者さんでは治療の軽減を目指している一方で、TKIで十分な効果が得られない、あるいは最初から進行した病期で発症する患者さんもいます。そういった患者さんへのさらなる治療薬、あるいは治癒を目指した造血幹細胞移植のより適切な選択基準なども、同時に考えていく必要があります。
患者さんが少なく、なかなか成人のようなエビデンスを得ることは困難ですが、2023年に刷新された国際BFM研究グループ(I-BFM)のCML committeeには、私たちJCCG CML委員会を含む世界各国の小児CML研究会がこぞって参加しています。これからは、世界中でまとまって進める研究が増えることで、有効なエビデンスが蓄積されていくはずです。成人との違いを考慮した、小児のCML患者さんのためのよりよい治療法が開発されていくことが大いに期待されます。
今後とも、CML委員会をどうぞよろしくお願いいたします。
CML委員会委員長
遠野千佳子
弘前大学大学院保健学研究科 看護学領域 教授
2022年9月 | 第3回欧州小児がん学会において、CML-08観察研究におけるボスチニブ投与症例の解析を発表しました。 |
---|---|
2022年3月 | 第48回欧州血液骨髄移植学会において、CML-08観察研究における移植症例の解析を発表しました。 |
2022年2月 | Pediatric Blood&Cancer誌にSTKI-14臨床試験の結果が掲載されました。 |
2021年12月 | 第63回米国血液学会においてJPLSG CML-08観察研究の結果を発表しました。 |
2019年12月 | 第61回米国血液学会において、JPLSG STKI-14臨床試験の結果を発表しました。 |
2019年6月 | JPLSG CML-17臨床試験を開始しました。 |