血球貪食性リンパ組織球症(HLH)の解説

概要

血球貪食性リンパ組織球症(Hemophagocytic lymphohistiocytosis:HLH) は、白血球の一つであるリンパ球やマクロファージが過剰に活性化することにより引き起こされます。HLHは、原因によって一次性(生まれつき白血球の働きを調節する遺伝子に異常があるため、異常な免疫反応を起こす素質がある)と、二次性(生後何らかの原因で異常な免疫反応を起こすようになった)に分けられます。

病気の原因

一次性はおもに細胞傷害性顆粒の産生と代謝に関わる分子(PRF1,UNC13D,XIAP遺伝子)の異常により発症します。二次性 HLHは感染症、悪性腫瘍、あるいは自己免疫疾患に引き続いてして発症します。二次性HLHは小児から高齢者まで様々な年齢層に発症しますが、感染症と自己免疫疾患によるHLHは小児に多いことが知られています。
感染症関連HLHは、細菌、ウイルス、真菌など多種多様な病原体により引き起こされます。新生児期(特に生後1週間頃まで)におけるHLHの原因としては、単純ヘルペスウイルスが最も多く、予後は不良で治療法も確立していません。新生児期以降については、エプスタイン・バール・ウイルス(Epstein-Barr virus、以下”EBウイルス”と略します)が最多で二次性HLHの約3割を占めます。EBウイルスは小児から若年成人におけるHLH発症の主要な原因であり、わが国では少なくとも年間25例以上が発症し、HLH全体の約1/4を占めることが明らかになっています。

EBウイルスと感染様式

EBウイルスは、ヘルペスウイルス科に属するウイルスで、学名上はヒトヘルペスウイルス4型(Human herpesvirus 4:HHV-4)と呼ばれています。成人までのほとんどの人がこのウイルスに感染しています。EBウイルスは唾液を介して、おもに口腔内や上咽頭のB細胞や上皮細胞に感染します。その後、活性化したT細胞がEB ウイルス感染 B細胞を排除しますが、生涯にわたって潜伏感染し完全には排除はされません。その免疫応答の強さによって、無症状ないし非特異的な上気道炎から、伝染性単核球症までの幅広い症状がみられます。また一部の悪性リンパ腫や上咽頭がん、胃がんなどの悪性腫瘍との関連が示唆されています。今のところ有効な抗ウイルス薬やワクチンは存在しません。

病気の原因

EB ウイルス感染を原因とする EBウイルス関連血球貪食性リンパ組織球症(EBV-HLH)は日本を含む東南アジアを中心に頻度が高い疾患として知られています。EBV-HLHでは、EBウイルスがB 細胞ではなくCD8陽性 T細胞に感染しています。この T細胞への感染経路はいまだ明らかにされていません。EB ウイルスが感染した T細胞はモノクローナルに増殖・異常活性化し、二次的にマクロファージを活性化します。これら2つの免疫細胞が過剰に活性化した結果、IL-1β、IL-6、IL-10、TNF-α、IFN-γをはじめとしたサイトカインが大量に産生され、血球貪食のほかさまざまな臓器障害が起こります。ほとんどが自然治癒する伝染性単核球症と異なり、EBV-HLHでは早期に適切な治療を行わないと予後不良となることが知られています。

パンフレット(注記:臨床試験EBV-HLH-15の募集は現在終了しています)

症状について

過剰な免疫応答の結果、以下の症状が出現します
・発熱
・発疹
・リンパ節腫脹
・脾腫
・髄膜刺激症状
その他、けいれん・意識障害などの中枢神経症状も高頻度に認めます。

検査について

(1)血液・尿検査

血球検査で、血小板や白血球、赤血球が高度に減少した汎血球減少症を示します。また異型リンパ球の増加を認めますが、これらはHLA-DR陽性T細胞であり、病状を反映していることがあります。
生化学検査でフェリチン上昇、可溶性IL‒2 受容体(sIL‒2R)上昇、ASTやLDHなどの逸脱酵素の上昇を認めます。そのほか、播種性血管内凝固症候群(DIC)により体の血管の中で血栓ができやすい一方で、フィブリノゲンをはじめとした凝固因子の過剰な消費により出血が起こりやすくなります。

(2)画像検査

中枢神経症状のある患者さんの頭部MRI所見として、上大脳白質にT2強調画像あるいはflair像で、high-signalを巣状に呈する特徴的な所見がみられます。

(3)骨髄検査・病理組織検査

白血病や再生不良性貧血を除外するためにも、骨髄検査は重要です。骨髄所見は低形成で、未熟あるいは成熟した組織球の増多があり、これらが血球貪食像を示します。

(4)感染・遺伝子検査

大部分はEBウイルスの初感染に引き続いて発症するため、EBウイルス関連抗体検査では、EBNA抗体陰性、 VCA-IgG抗体陽性の初感染型を示します。VCA-IgMは乳幼児期では陽性率が低いため、必ずしも陽性である必要はありません。

  VCA-IgM VCA-IgG VCA-IgA EA-IgG EBNA(IgG)
未感染
初感染(伝染性単核症) +※
既感染
再活性化(免疫不全) +/ー +/ー +/ー +/ー

(注釈)※ 乳幼児期では陽性率が低い
(引用)M.Okano: Epstein-Barr virus and human diseases:recent advances in diagnosis. Clin Microbiol Rev 1988;1:300-12. より一部を改変

近年は、EBV 感染の評価として、リアルタイムPCR法によるEBD-DNA量の測定が重要視されおり、EBV‒DNA量が高値であることの確認が必要です。また可能なかぎり(1)感染細胞がCD8陽性T 細胞であること、(2)感染細胞がモノクローナルな増殖をおこしていること、の確認が必要です。

分類について

EBウイルスに初感染してHLHを発症した場合、EBウイルス感染CD8陽性T細胞の増殖・炎症性サイトカインを過剰産生により、マクロファージの活性化や血球貪食が誘導される発症すると考えられています。 一方で、再活性化に伴ってEBV-HLH発症することもあります。患者さんに何らかの免疫不全・異常が存在することによりEBウイルス感染細胞を制御できない状態が考えられます。後者に代表的なものとして慢性活動性EBウイルス感染症があり、経過中にHLHを発症することがあります。

診断について

診断にはHLH‒2004 を骨格とした基準が用いられています。以下にEBウイルス関連血球貪食性リンパ組織球症(EBV-HLH)の診断基準(厚生労働省研究班、2015年)を示します。〔

これらの所見は病初期(HLHを疑った時点)にすべてを満たすわけでなく、経過とともに条件が揃ってくることが少なくありません。したがって疑った時点で、身体所見や検査データの注意深く観察し、 適切に対応することが重要です。

治療について

EBV-HLHは急速に病状が進行し、DICから多臓器不全に至ります。したがって、EBV-HLHが疑われる場合には、免疫グロブリン大量療法、ステロイド、シクロスポリンなどの免疫調整療法をすみやかに開始する必要があります。これらにより解熱せず、治療不応と判断される場合は、エトポシドを中心とした化学療法が行われます。難治例には、基礎疾患の精査を進めるほか、多剤併用化学療法や造血幹細胞移植が考慮されます。

臨床試験について

JCCG HLH/LCH委員会ではEBV-HLHに対して患者さんのリスクに応じて治療方法を法別化した臨床試験を行ってきました(EBV-HLH-15)。現在、本臨床試験の解析を行っており、新規治療法を検討しています。

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