ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)の解説

概要

ランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis; LCH)は、樹状細胞の一つであるランゲルハンス細胞と同じ形質をもつLCH細胞により発症する疾患です。LCH細胞が皮膚や骨、肺、肝臓などの臓器に浸潤し、さまざまな症状が起こります。15歳未満の小児におけるLCHの年間発生率は100万人あたり約5〜9人、15歳以上の患者では100万人あたり1人程度とされています。

病気の原因

LCHは、LCH細胞が(1)臓器に集簇し、(2)炎症を引き起こす特徴があります。主な原因としては以下の要素が関与していると考えられています。

1. LCH細胞の発生: 2010年にLCH細胞に、発がん性変異であるBRAFV600E変異が約半数の患者で認めることが報告され、その後他の遺伝子変異の報告がありました。またLCH細胞の遺伝子発現を幅広く検討したところ、表皮のランゲルハンス細胞ではなく、骨髄にある骨髄性未熟樹状細胞が上昇したものであることが明らかになっています。

2. 免疫系の異常: 病変部位にはLCH細胞のほかに、好酸球やリンパ球、マクロファージなど様々な炎症細胞の浸潤を認めます。またLCH患者さんの血液中には炎症物質(サイトカイン/ケモカイン)が上昇していることが報告されています。

3. 環境要因: LCHの発症には環境要因も関与していると考えられています。たばこの煙、化学物質、石綿など、特定の環境因子がLCHのリスクを増加させる可能性があります。

4. 感染症: メルケル細胞ポリオーマウイルスのDNAが小児患者さんのLCH細胞から検出されることや、高リスク患者では末梢血液中の単核球からも検出されることが報告されています。

以上の要素がLCHの発症に関与する可能性がありますが、まだ完全に解明されていません。今後もより多くの研究が必要であり、個々の患者に応じた原因の特定方法や治療法の開発が進められています。

分類について

浸潤臓器の部位や数によって以下の様に分類します。

単一臓器型(single system; SS):一つの臓器に限られるもの
SS-s (single site)型:皮膚のみ、リンパ節のみ、骨1か所のみ
SS-m (multi site) あるいはMFB(multi focal bone):多発の骨病変

多臓器型(multi system; MS):二つ以上の臓器に病変があるもの
リスク臓器( 肝臓・脾臓・骨髄)あり
リスク臓器なし

そのほか、成人で発症する肺ランゲルハンス細胞組織球症や、中枢神経を主病変とする中枢神経ランゲルハンス細胞組織球症(Central nervous system involvement in LCH; LCH-CNS)があります。LCH-CNSではさらに、頭蓋内に腫瘤性病変をつくるタイプと、進行性の神経変性症を発症するタイプ(神経変性ランゲルハンス細胞組織球症(Neurodegenerative LCH; LCH-ND))にわけられます。

症状について

LCHの症状はLCH細胞が浸潤する臓器に応じてさまざまな症状が出現します。骨や皮膚が多く、そのほかにリンパ節、肝臓、脾臓、肺、造血器、軟部組織、胸腺、下垂体、中枢神経など全身の臓器に病変が出現します。 症状は、病変の部位や範囲によって異なりますが、以下のものがあります。

• 発熱
• 骨の痛みや腫れ、病的骨折(軽い力で起こる骨折)
• 脂漏性湿疹に似た皮疹や出血性丘疹
• 咳、呼吸困難、胸痛、気胸(肺に穴が空いて空気が漏れること)
• 中耳炎、外耳道炎、耳だれ、難聴
• リンパ節の腫れ
• 黄疸、腹水(肝臓の障害)
• 多飲・多尿(下垂体の障害による尿崩症)
• 成長障害、性腺機能低下(下垂体の障害)
• 慢性の下痢(消化管の障害)
• 歯茎の腫れや歯のぐらつきなど(口腔粘膜の障害)

また不可逆性病変(元と全く同じ状態に戻すことのできない病変)として、下垂体浸潤にともなう尿崩症(15.8%)や成長ホルモン分泌不全をはじめとした下垂体前葉機能低下症(6.9%)、中枢神経変性症(6.3%)、知能障害・学習障害(5.3%)、整形外科的障害(8.5%)、難聴(2.8%)などがあります(カッコ内はJLSG-96 およびJLSG-02 登録症例によるLCH全体のデータ)。

検査について

(1)血液・尿検査

LCHでは、特徴的な腫瘍マーカはありません。血液検査で炎症反応の上昇を認めることがあります。また尿崩症を発症した場合、尿量の増加や尿浸透圧の低下、血液中のバゾプレシンの低下を認めます。

(2)画像検査

病変部位の拡がりや程度の評価のために、画像検査を行います。骨病変の評価のために、X線撮影、単純CT、骨シンチグラフィなどが有用です。肺や胸腺の病変の評価に、単純CT検査を行います。また中枢神経病変の評価のために、造影頭部MRI検査を行います。

(3)病理組織検査

病変部位の生検組織では、LCH細胞は核のくびれやしわをもつコーヒー豆様の形をしています。免疫染色という方法でCD1aやCD207(ランゲリン)が陽性に染まり診断が確定します。

(4)遺伝子検査

臨床試験で、BRAF遺伝子の検査を行うことがあります。本遺伝子検査は保険適応では行えません。

診断について

診断には病変部位の病理組織診断が必須です。さらに病変の広がりや程度の評価には、上記の画像検査を行います。

治療について

病型、症状毎に治療方法を選択します。単一骨病変や皮膚単独病変では、自然軽快が期待できるため、無治療経過観察が基本方針となります。しかし、単一骨病変でも脊髄や視神経の圧迫がある場合、強い疼痛が持続する場合、中枢神経リスク病変がある場合は、全身化学療法が考慮されます。また多臓器型では、再発率の抑止と不可逆性病変の回避のため、全身化学療法が行われます。
化学療法は、ビンカアルカロイドとステロイドを基本とした治療を行います。多臓器型かつリスク臓器浸潤陽性で、化学療法に対して不応の患者さんに対して、造血細胞移植が考慮されます。
近年はBRAF阻害薬がBRAF遺伝子変異をもつLCH患者さんに対して保険適応となり、新しい治療法として注目されています。

長期的な問題点

LCHは自然に退縮するものから、全身に病変がおよび時に生命を脅かすものまでさまざまな経過を辿ります。再発を繰り返しやすいことも特徴です。
またLCH は、ほかの小児がんと異なり治療薬に伴う晩期合併症はあまり認められず、LCHそのものによる晩期合併症(不可逆性病変)が多く認められます。これら不可逆性病変はLCH発症から10年以上経過してから発症する可能性もあるため、長期のフォローアップが重要です。

臨床試験について

JCCG HLH/LCH委員会では多臓器型および多発骨型のLCHに対して化学療法を主体とした臨床試験を行っています。

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