腎腫瘍の解説

どんな病気?

小児の腎臓に発生する腫瘍は、日本では年間70〜100例程度が発症しています。その80%は腎芽腫(ウイルムス腫瘍)という組織型で、3歳未満の乳幼児に多く発症します。その他、稀な組織型として腎明細胞肉腫、腎ラブドイド腫瘍、腎細胞癌、間葉芽腎腫があります。組織型によって予後が異なるため、組織型の特定はとても大切です。
ウイルムス腫瘍の25%に何らかの奇形(停留精巣、尿道下裂、半身肥大、顔面骨変形、四肢変形、無虹彩症など)を認めます。逆にウイルムス腫瘍を発症しやすい奇形症候群として、Beckwith-Wiedemann 症候群、孤立性半側肥大症、WAGR症候群(無光彩症、外性器異常、精神遅滞)、Denys-Drash症候群(半陰陽、腎疾患)、18トリソミーなどが知られています。

どんな症状が出るの?

腹部膨隆が最も多く見られます。その他、腹痛、肉眼的血尿、発熱、顔面蒼白、高血圧などがみられますが、血尿の頻度は12~25%と高くありません。

どんな検査をするの?

(1)血液検査、尿検査

LDHの上昇、血清NSEの上昇、血中レニン活性の上昇がみられることがあります。尿検査では血尿を認めることがあります。

(2)画像検査

腹部エコー、CT・MRI検査は、原発巣の性状や、腎血流、下大静脈への腫瘍進展の有無を確認するため及び遠隔転移を調べるために行います。骨シンチグラフィーは、骨転移の有無を調べるために行います。また、原発巣、転移巣の広がりを判断するためにFDG-PET検査が行なわれることがあります。

(3)腫瘍生検

最終的な確定診断には、腫瘍の一部を手術で採取し顕微鏡で病理診断することが必要となります。腎芽腫では退形性(anaplasia)の所見がないものはfavorable histology(FH)といい予後が良好で、腎芽腫の約90%はこのタイプです。一方、退形成がある場合はunfavorable histologyといい、限局性とびまん性とにさらに分類され、びまん性退形成性の予後は不良とされます。また、腎明細胞肉腫、腎ラブドイド腫瘍も予後不良の組織型です。化学療法の治療強度が組織型により大きく変わるため、施設診断だけではなく、中央病理診断診断も必ず行います。

ステージは?治りやすさの違いは?

National Wilms Tumor Study Group病期分類で病変の広がりを区分します。他の臓器の腫瘍と異なり、両側性の場合をStage Vとして別に扱います。
• Stage I:腎に限局しており、完全摘除されている。
• Stage II:腫瘍は腎被膜を越えて進展しているが、完全摘除されている。
• Stage III:腫瘍が腹部の範囲で遺残している。
• Stage IV:肺、肝、骨、脳などへの血行転移を認める。または腹部・骨盤以外のリンパ節に転移を認める。
• Stage V:初診時に両側腎に腫瘍を認める。この場合、左右それぞれの腫瘍について、上記判定基準に基づいて局所のStage(1〜3)を決定する。

どんな治療をするの?

上記の病期分類と病理組織の結果を合わせて治療法を決定します。腎芽腫は化学療法、放射線治療に感受性が高く、治療成績は良好です。一方、その他の組織型特に腎ラブドイド腫瘍の治療成績は未だ不良です。下の表はこれまでわが国の腎腫瘍治療研究グループ(JWiTS)で行われてきた腎芽腫の治療法と成績です。腫瘍の大きさや施設の方針によって外科手術のタイミングが異なりますが、化学療法は共通です。 なお、Stage Vでは生検を行わずに術前化学療法を先行させます。局所病期がより進行している側に合わせた化学療法を行います。晩期合併症としての腎不全が大きな問題で、そのリスクを減らすため、腫瘍の縮小を図った上での腎温存腫瘍切除術が選択されます。 再発に対する統一された治療法はなく、主治医の先生が患者さんの病状に合わせた治療を行なっています。腎芽腫の場合はイフォスファミド、カルボプラチン、エトポシドを用いた化学療法と外科手術、放射線治療の併用療法が多く行われています。これにより肺単独再発の場合の治療成績はとても良好です。

どんな治療研究があるの?

1996年に日本ウィルムス腫瘍研究グループ(JWiTS)が発足し、今までに米国の治療を参考にして、JWiTS-1、JWiTS-2の二つの治療研究が行われました。現在は日本小児がん研究グループ(JCCG)に活動が引き継がれ、2022年よりヨーロッパの治療研究UMBRELLAに参加する形で治療研究が開始されています。

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