小児がんの領域で行われている主な支持療法をお示しします
小児がんで行われる化学療法は、ばい菌やウイルス、かびなどの病原体に対する抵抗力(免疫)を落とします。化学療法中には、普通の免疫力ならかからないような感染症(日和見感染症)にかかって、患者さんが苦しんだりがんの治療を妨げることがあります。このような感染症の予防や治療として、以下の支持療法が行われています。
化学療法によってどの程度免疫力が低下するかに応じて、抗菌薬(ばい菌を抑える薬)や抗真菌薬(かびを抑える薬)を投与します。抗ウイルス薬を用いることもあります。また、かび(アスペルギルス)の胞子を患者さんが吸って肺炎が起こらないようにするために、きれいな風が流れる装置をベッドに取り付けることがあります。手洗いや歯磨きを正しく行うことも大切です。
私たちが持っている白血球(病原体を退治してくれる細胞)は、化学療法を行うと減少します。白血球が少ないときに感染症で発熱した際には、ただちに病原体を調べるための検査を行って、治療のための抗菌薬(必要に応じて抗真菌薬や抗ウイルス薬)を投与します。白血球を増やすための薬(G-CSF)を使うこともあります。
化学療法や放射線療法の副作用として、気持ち悪くなったり(悪心)、吐いてしまう(嘔吐)ことがあります。悪心・嘔吐が出やすいと予想される治療を行うときには、悪心・嘔吐を予防するための薬をあらかじめ投与することによって、症状をかなり予防できるようになりました。
化学療法を行うと、骨の中(骨髄)で血液を作る働きが低下します。赤血球(酸素を全身に運ぶ細胞)が減少すると貧血となり、血小板(出血を止める細胞)が減少すると血が止まりにくくなります。貧血や血小板減少が進んできた場合には、赤血球や血小板の輸血が行われます。
小児がんでは、一刻を争う緊急事態が起こることがあります。たとえば、がんそのものが大切な臓器(脳、神経、血管、腎臓、腸など)を圧迫したり、がん細胞が治療によって大量に壊れると体の塩分のバランスが急に悪くなって尿酸値が上がります(腫瘍崩壊症候群と言います)。このような状況をがん救急と呼び、これらに対応することも支持療法として重要です。
食事は患者さんにとって大きな楽しみであり、とりわけ成長期のお子さんにとって、栄養を十分に摂ることは大切です。しかし小児がんの治療中には、口や胃腸の粘膜にダメージが加わり、口内炎の痛みで食事がとりにくくなることがあります。加えて、化学療法の副作用などのために食欲が落ちることもあります。
入院での治療中には原則として、しっかり加熱してばい菌を減らした食事を摂っていただきますが、治療の内容や病院の方針によって、どのようなものを食べることができるかは変化します。栄養士が体調や好みに応じて、食べやすい食事を工夫します。また食事を摂りにくいときは、中心静脈カテーテルから栄養を補給することがあります。口内炎の痛みに対して、鎮痛薬を積極的に使って痛みを和らげます。
小児がんの診療では、骨髄穿刺や腰椎穿刺、カテーテルの挿入といった、患者さんにとって負担のかかる処置が必要になることがあります。また、画像検査(CT、MRI、シンチグラムなど)や放射線治療を行うときは、体を動かさず安静を保つ必要があります。そこで、これらの処置や検査の負担をやわらげるとともに、安全かつ確実に処置や検査を行うことができるように、眠たくなる薬や痛みをとる薬を、必要に応じて処置や検査の前に投与します。
小児がんの患者さんは、処置や検査のときだけでなく、病気による症状や治療の副作用などで、体や心がつらくなることがあります。痛みなどのつらい症状は我慢するものではなく、痛み止めの薬などを積極的に使ってやわらげます。また、小児がんの患者さんやご家族は、体と心だけでなく、家庭や社会での生活上も大きな負担や困難に直面します。このような苦痛を総合的(トータル)にやわらげるために、医師、看護師、ソーシャルワーカー、臨床心理士など多くの専門家が、小児がんと診断された時から協力して対応します。
小児がんの治療で使う薬には、上に挙げた以外にも、それぞれの薬に特有の副作用があります。それらを予防・治療することも、重要な支持療法です。
また、小児がんの治療中には、病気そのものや治療の影響に加え、限られた入院環境の中で、必要以上の安静などで身体活動量や体力の低下を引き起こし、退院後の生活に何らかの支障を来たすことも少なくありません。これらに対して理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などのリハビリテーション専門職が各種機能の改善に取り組みます。