神経細胞をサポートし脳そのものを形作っている重要な細胞がグリア(神経膠細胞)です。グリアの遺伝子が何らかの異常をおこして腫瘍になったのが、グリオーマ(=神経膠腫)です。脳そのもの(=脳実質)に発生して周囲に染み渡るように(=浸潤性に)広がる性質を持ちます。比較的境界がはっきりしていて摘出可能なものもありますが、正常脳との境界が不明瞭で摘出することで脳機能を損なう場合もあるため、摘出できないものもあります。ひとくちに神経膠腫と言っても、たくさんの種類がありますが、大きく分けて低悪性度と高悪性度に分類されます。また成人型の神経膠腫と小児型の神経膠腫では、遺伝子異常の観点でも腫瘍の性質でも異なることがわかってきました。たくさんの種類があるので、ここでは代表的な腫瘍について紹介します。
低悪性度神経膠腫の代表格が、毛様細胞性星細胞腫です。これは小脳に発生するものと視路(視神経・視交叉・視索・視床下部)に発生するものが多いです。BRAFという遺伝子の変化がみられることが多いのが特徴的です。小脳発生では失調症状(ふらつき、細かい作業ができない、ろれつが回らない)や頭蓋内圧亢進症状で発症し、視路発生では視力低下で発症します。
小脳に発生した場合、嚢胞(中に液体をためた袋状の構造)が形成されることが多く、また正常小脳との境界が明瞭で、手術で全摘出できれば、補助療法なしで治癒します。
一方、視路発生では、摘出で視機能を損なうので、全摘出できるものは一側視神経に限局したものに限られ、通常摘出困難です。多くは化学療法で治療しますが、化学療法のみで治癒させることは困難で、大きくならなければよい、と言うような治療になります。一方、思春期以降に自然縮小することもあります。
神経線維腫症1型に伴って発生することがあり、その場合も自然縮小が知られています。
成人のびまん性神経膠腫ではIDH(イソクエン酸脱水素酵素 Isocitrate dehydrogenase)遺伝子変異の有無が重要で、IDH変異のない野生型の方が予後が悪いのですが、小児ではIDH野生型でも、組織学的に良性で予後が良い小児型びまん性低悪性度神経膠腫があることがわかりました。成人型と小児型の大きな違いです。この中でも遺伝子変化により分類されますが、主には大脳半球に発生します。症状は発生部位で異なりますが、一般にてんかんの原因となることが多いと言えます。
てんかんの原因であれば、てんかんのコントロール目的の摘出も行われます。組織診断のみで全摘出せず補助療法も行わずに経過をみられる場合もありますが、正確な予後はまだわかっておらず、遺伝子変異によっては分子標的薬治療を要するものもあるかも知れません。
小児の悪性神経膠腫(グリオーマ)の代表格です。主には橋に発生し以前から「びまん性橋グリオーマ(Diffuse intrinsic pontine glioma: DIPG)」と呼ばれていました。ヒストン遺伝子であるH3の変異がみられることがわかり、このH3変異があるものをDMGと呼ぶことになりました。橋以外では視床でもみられます。
橋発生の場合、症状として眼球運動障害が初発のことも多く、最初は斜視だと思われていこともあります。その他、顔面神経麻痺、運動麻痺、体幹失調(ふらつきなど)などで発症する場合もあります。
橋発生では摘出はできません。生検で遺伝子変異の診断をする場合もありますが、その必要性は確定していません。したがって画像診断のみで治療する場合が多いです。治療は放射線治療になります。これまで有効な化学療法は見いだされていません。
放射線治療で一時的に腫瘍縮小がみられても数ヶ月で再燃し進行することがほとんどです。DIPGの平均生存期間は12か月以内とされています。現在、最も難治な小児脳腫瘍と言えると思います。
小児の神経膠腫でIDH野生型でH3変異も無いもので、組織学的に悪性所見を示すものがあり,ここに分類されています。脳のあらゆるところで発生し特異的な部位はありませんが,発生部位により症状は異なります。
発生部位で摘出度は異なりますが、基本的には可及的に摘出し補助療法を行います。化学療法としてはテモゾロミドやベバシズマブが用いられることが多く、3歳以上であれば放射線治療が行われます。
やはり悪性度は高く、平均生存期間は約18か月とされています。