小児肝がんは、小児期に肝臓の中に悪性腫瘍(がん)ができる疾患で、代表的なものとして次の2種類があります。
・肝芽腫:小児期に特有の肝がんで、通常5歳未満の小児に発生します。
・肝細胞がん:成人にもみられる肝がんで、あらゆる年齢の小児に発生します。
家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)、ベックウィズ‐ヴィーデマン症候群、低出生体重の患者では肝芽腫の発生リスクが高くなることが知られています。また、B型肝炎かC型肝炎ウイルスが母親から子供へ感染した場合や、胆汁性肝硬変やチロシン血症などの特定の疾患によって肝臓に損傷を受けていると、肝細胞がんの発生リスクが高くなります。
腹部、特に右上腹部のしこり、腹痛、発熱、食欲減退、体重減少、吐き気、嘔吐などがあります。症状は、腫瘍が大きくなるほどより多く出現します。また、腫瘍内出血や腫瘍破裂により出血性ショックに陥ることがあります。これらは外傷をきっかけに起こることもあります。
採取した血液を調べて、臓器や組織、腫瘍細胞などから血液中に放出された小児肝がんに特徴的な物質(腫瘍マーカーといいます)の量を測定します。小児肝がんでは、血液中のα-フェトプロテイン(AFP)と呼ばれる物質の濃度が上昇します。ただしAFPの値については、出生直後は正常児でもかなり高い値を示しますし、他の種類のがんやがん以外の病態(肝硬変や肝炎など)でも上昇してくることがあります。 これらの区別のために、AFPのタイプを調べることもあります。また、β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン(β-hCG)と呼ばれるホルモンの濃度や、肝が産生するコレステロール値が上昇することがあります。
赤血球の数、白血球の数、血小板の数、ヘモグロビンの量、肝機能検査(肝臓から血中に放出される特定の物質の濃度から肝臓の機能を推定する検査法)などを測ります。肝芽腫では血小板増多がしばしば見られます。また、正常の肝細胞や胆道を圧迫あるいは傷害するために、肝機能検査の値が正常値よりも高く出ることがあります。
腹部X線、超音波検査、CTスキャン(コンピューター断層像)、MRI(磁気共鳴画像法)、血管造影などの検査を組み合わせて行い、腫瘍の大きさや進展状況を検査します。現在では、CTやMRIの画像をコンピューターで3次元構築することで、腫瘍の位置や、血管・胆管との関係を検討することができます。
がんの徴候を調べる顕微鏡検査のために細胞や組織を採取することです。腫瘍の切除または観察のために手術が実施される場合には、その最中に組織サンプルの採取が行われます。また、太い針をおなかの外から刺して、腫瘍の一部を抜き取ることも行われています。病理医が採取されたサンプルを顕微鏡で観察し、肝がんの有無やその種類を調べます。
小児肝がんは希少腫瘍であり、施設あたりの症例数はとても少ないです。JCCG肝腫瘍委員会が遂行する臨床試験では、正確な画像診断、組織診断を行うために、中央画像診断、中央病理診断をおこなっています。治療施設から画像やサンプルが提出され、小児肝がん専門画像診断医や病理診断医が診断し、正確な画像診断、病理診断を実現しています。
小児肝がんの病期分類システムには、以下の2つがあります。
・術後(手術実施後の)病期分類:腫瘍の観察または摘出を目的とした手術の実施後に体内に残存している腫瘍の量を基準とした病期(日本小児外科学会分類など)。
・術前(手術実施前の)病期分類:肝臓全体を4つに分けた区域(4区域)のそれぞれにおける腫瘍の拡がりの有無(MRIやCTなどの画像検査法によって判定される)を基準とした病期。この病期分類法はPRETEXTと呼ばれ、JCCGではこの分類を現在用いています。
PRETEXT I:肝臓の4区域の1つのみにがんが認められます。
PRETEXT II:肝臓の4区域の隣り合う2つにがんが認められます。
PRETEXT III:肝臓の4区域の隣り合う3つにがんが認められるか、もしくは肝臓の4区域の隣り合わない2つにがんが認められます。
PRETEXT IV:4区域の全てにがんが認められます。
再発:治療後に再び悪化したがんのことをいいます。再発は肝臓内に起こることもあれば、体の別の部位に起こる(転移)こともあります。
JCCGを含む世界の主要な研究グループが実施した過去の臨床試験情報を集約し、新しい国際リスク分類(CHIC分類)が作成されました。このリスク分類では、超低リスク群、低リスク群、中間リスク群、高リスク群の4つのリスク群が設定され、それぞれのリスクに応じた治療が行われています。リスク因子(回復の見込みと治療の選択を左右する因子)には以下のものがあります。
・PRETEXT分類
・遠隔転移
・診断時の年齢
・AFPの値が著しく低いか
・多発(腫瘍が2つ以上無いか)
・診断時に腫瘍が破裂していないか
・血管に浸潤がないか
・肝臓以外の腹部に病変がないか
小児肝がんの患者さんは様々な治療を受けることができます。その中には標準治療(すでに治療成績がわかっている治療法のなかで最適と思われる治療)もあれば、臨床試験で検証中のものもあります。治療法の臨床試験とは、正確な診断、現在用いられている治療法の改善、がんの新しい治療法に関する情報収集を目的とした調査研究のことです。新しい治療法が標準治療よりも優れているということが複数の臨床試験から示されると、その新しい治療法が標準治療となります。小児肝がん治療の軸は手術療法と化学療法です。小児肝がんの発生はまれであるため、小児が肝がんを発症した場合は例外なく臨床試験への参加登録を検討すべきです。臨床試験の参加登録によって、治療だけでなく小児肝がんの専門家による正確な診断も可能となります。臨床試験は本邦各地のJCCG施設で行われていますので、臨床試験への参加を希望されるときは、これらのJCCG施設に御相談ください。がん治療の選択では、患者さんとご家族に医療チームが加わって最適な治療法を決定していくのが理想的な形となります。
この疾患の治療は、小児腫瘍医(小児のがん治療を専門とする医師)が統括することになります。小児腫瘍医は、特定の医療分野を専門とする小児科医や、肝がんの小児の治療に精通した小児科医に協力を求めることがあります。さらに、肝臓手術の経験豊富な小児外科医や小児移植外科医が治療に参加することが特に重要になります。この他にも、以下のような専門医や専門家が治療に参加します:
・放射線腫瘍医
・小児専門看護師
・リハビリテーション専門家
・心理士
・ソーシャルワーカー
可能な場合は、手術によるがんの摘出が行われます。
・肝部分切除術:肝臓のがんに侵されている部分を切除する手術です。切除の方法としては、組織の楔状切除(一部分をくさび型に切除する方法:この方法は再発が多く推奨されません)、肝葉、肝区域(肝臓を血液の流れから4区域、左右二葉に分けています)切除、などがあります。
・全肝切除術と肝移植:肝臓全体を切除して、代わりとしてドナーから提供された健康な肝臓を移植する治療法です。肝移植は、がんが肝臓の外部には拡がっておらず、かつ肝臓のドナーがみつかった場合に行われます。
・転移巣切除:肝臓の外部(周辺組織や肺、脳など)へ転移したがんを切除する手術です。
化学療法は、薬を用いてがん細胞を殺傷したりその細胞分裂を妨害したりすることによりがんの増殖を阻止する治療法です。多くの場合、腫瘍を小さくして摘出しやすくするためや、手術による腫瘍細胞の飛散を防止するために、手術の前に化学療法が実施されます。また術後に残っているがん細胞を全て死滅させるために、術後化学療法も実施されます。
シスプラチンと呼ばれる抗がん剤を用いることが多いですが、複数の抗がん剤を用いる治療法もあり、化学療法の実施方法は、治療中のがんの種類と病期によって異なります。
手術と抗がん剤治療をうまく組み合わせる治療法の開発により、肝芽腫の治療成績は向上し、約80%の患者が長期生存できるようになっています。しかし、遠隔転移例や高リスクの患者では、半数以上の患者が長期生存できない状況で、さらなる治療成績の向上が期待されています。
肝切除術の合併症として手術中は出血が大きな問題となることがあるため、輸血の準備が必要となります。術後は出血、胆汁漏、肝不全、感染症に注意が必要で、長期的には胆管狭窄、胆管炎、術後腸閉塞などが起こる可能性があります。また、それぞれの抗がん剤には共通する副作用と各々に特有な副作用があります。副作用は使用する抗がん剤の量、投与方法,投与間隔、組み合わせにより異なってきます。手術療法や化学療法を受ける場合には十分な説明を受け、治療経験豊富な専門医がいる施設で治療を受けることをお勧めします。
1991年に国内のほぼ全域の施設が参加する形で日本小児肝がん研究グループ(JPLT)が設立され、すべての小児肝がんを対象とした臨床研究JPLT-1, JPLT-2が行われました。現在その活動は、2014年に設立された日本小児がん研究グループ(JCCG)の肝腫瘍委員会に引き継がれました。2013年から臨床研究JPLT-3を実施し、2018年からは欧米の研究グループであるSIOPEL、COGと協力して、国際共同臨床試験(PHITT/JPLT4)を行っています。