軟部と呼ばれる体の軟らかい部分に発生する悪性腫瘍で最も多い小児がんです。病名に「横紋筋」が含まれていますが、手足(四肢)や腹部・背部(体幹)の筋肉だけでなく、頭部や顔面の表面(頭頸部)、目の奥(眼窩)、頭部や顔面の奥(傍髄膜)、泌尿生殖器(膀胱、前立腺、睾丸(傍精巣)、子宮、膣、外陰部)、肛門周囲(会陰部)、肝・胆道、腹部の背側(後腹膜)など全身から発生します。
2004年に我が国の横紋筋肉腫研究グループ(JRSG)が結成され、初めての全国的な臨床試験(JRS-I)が実施されました。2015年にJCCGが設立されるとともに、JRSGの役割が移行する形で横紋筋肉腫委員会が設立されました。横紋筋肉腫の治療は化学療法、外科治療、放射線治療を組み合わせて行う必要があります。横紋筋肉腫委員会では、小児科だけではなく小児外科、整形外科、眼科、泌尿器科、頭頚部外科、婦人科、放射線科など様々な領域の医師が協力しながら、最適な治療法の確立を主な目的として活動しており、現在は第2期臨床試験(JRS-II)を実施しています。
小児がんは、日本においては年間2,000名~2,500名が発症するといわれています。その中でも横紋筋肉腫は小児がん全体の5~10%の割合と言われており、稀ながんということになります。ただし、軟部組織肉腫(Soft Tissue Sarcoma)というカテゴリーでは、横紋筋肉腫は小児で最も頻度の高いがんです。日本では年間70~100人くらいの小児が横紋筋肉腫を発症していると推測されます。10歳までに発症することが比較的多いですが、思春期の青少年や30歳くらいまでの若年成人にも発症し、すべての年齢層で一定の割合で発症するといわれています。副鼻腔、耳下腺、咽頭などの頭頚部領域、瞼や眼窩(目の奥)などの眼科領域、膀胱や睾丸、前立腺、子宮や膣などの泌尿・生殖器領域、四肢、脊椎などの整形外科領域、体幹、腹部の中など、全身のどこからでも発生します。
小児がんはたくさん種類があり、またその治療はがんの種類によって異なりますので、まず正確な診断を行う必要があります。診断は手術で採取した腫瘍の顕微鏡的所見(病理組織)で行われます。横紋筋肉腫を含む小児がんの病理診断は時に難しいこともあり、特に横紋筋肉腫に精通した小児病理医に集めて診断すること(中央病理診断)が必要です。病理組織のタイプは大きく胎児型と胞巣型に大別されます。さらに近年、胞巣型には特徴的な遺伝子異常が同定されており、診断の根拠となることがわかっています。
発生部位や、手術の所見(初回の治療でどのくらい切除できたか)などをあわせてその後の治療方針を決定するリスク分類が行われます。これらの評価をもとに現在、本邦では横紋筋肉腫に対しては低リスクA、低リスクB、中間リスク、高リスクの4つのリスク群に分けて治療を行っています。横紋筋肉腫と診断が決定されてからの治療は、化学療法(抗がん剤治療)、放射線療法、外科療法(手術)の組み合わせによる集学的治療で行われます。
化学療法は軽重、長短はあれ、手術で取り切れた場合も含め、すべての例に必要です。また腫瘍を手術で取り除いたあとの部位からの再発(局所再発)が多いため、それを防ぐため(局所制御)、放射線療法が必須です(組織型が胎児型で、最初の手術で顕微鏡的に診ても完全に取り切れた場合は、放射線治療が不要の場合があります)。成長期にある小児では放射線照射部位の成長障害や変形など、将来、障害となるような副作用が問題となることがありますので、小児の放射線療法に精通した治療医との連携が必要です。
このように横紋筋肉腫の治療は、小児科医、小児外科医をはじめ、整形外科、泌尿器科、耳鼻咽喉科、眼科ら、多領域の臓器別専門外科医、 また、肉腫あるいは小児がんに精通した病理医、放射線診断・治療医との密接な連携が必要です。さらに昨今のゲノム医療の発展により、小児がんに関しても新たな知見も得られてきており、これらの所見が診断だけでなく治療に組み込まれる可能性も出てきました。また、小児期に救命できた例でも成長するにつれ、身体のアンバランスが目立つようになったり、内分泌障害や循環器障害などの慢性疾患(晩期合併症)や不妊に悩まされたりする人も少なくなく、治療終了後も長期のフォローアップと晩期合併症のケアが必要となります。
治療法を改善、開発するためには臨床試験が必要ですが、稀少ゆえ、一施設での工夫では有効性を科学的に証明することはできないため、多施設共同研究(グループスタディ)が必要です。欧米、とくに米国では1970年代から横紋筋肉腫治療研究グループ(Intergroup Rhabdomyosarcoma Study Group; IRSG)があり、6~8年ごとの大規模臨床試験を重ね、その治療成績を改善させてきました。日本では、長らく、IRSGの臨床試験結果発表論文などを参考に、施設ごとに工夫をして様々な治療が行われてきましたが、当時米国などで行われている最新の試験治療より10~20年近く前の治療となっている可能性もありました。現に2000年頃までの日本の小児横紋筋肉腫患者の全国調査ではその治療成績はIRSGのそれより10~20%低い結果でした。1990年代から準備を始め、2004年、我が国の横紋筋肉腫治療研究(臨床試験)グループ、JRSGを結成し、全国的臨床試験(JRS-I)を開始しました。JRS-Iが終わり、その結果をもとに、2015年に発足した日本小児がん研究グループ(Japan Children’s Cancer Group; JCCG)の疾患委員会の一つ、横紋筋肉腫委員会として、JRSG第二期臨床試験(JRS-II)を始めています。現在JRS-IIが行われていますがこれらの結果をもとにさらに今後、第三期臨床試験(JRS-III)へと発展させていく予定です。
JRSG代表幹事は、初代土田嘉昭先生、2代森川康英先生、そして3代細井創先生のときJCCG横紋筋肉腫委員会に移行し、後任として私は2021年より2代目の委員長を引き継ぎました。これまでの多くの先生方によって積み重ねられてきた実績を委員会の総力をあげてさらに発展させていきたいと思います。 JRSGの臨床試験に多くの患者さんが参加していただき、一人でも多くの方がこの難病を克服し、また治療後も質の高い生活と人生を送られることを切に願ってやみません。
2023年6月
横紋筋肉腫委員会委員長
木下義晶
横紋筋肉腫委員会では、JRS-II臨床試験の実施を通して、横紋筋肉腫のよりよい治療を目指しております。年4回の定例の委員会を開催し、臨床試験の進捗報告や横紋筋肉腫の治療開発について議論を重ねております。JRS-II試験については、低リスクA群と高リスク群では登録を終了し、3年後に結果が判明する予定となっております。低リスクB群、中間リスク群については、2024年中に登録が終了する見込みです。
希少疾患であることから、国際的な交流も重要であり、2023年9月に北海道で開催された小児血液がん学会では、米国Children's Oncology Group(COG)の前の軟部肉腫委員会の委員長で、現在はCOGの代表を務めておられるDouglas Hawkins先生と会合を行いました。米国での臨床試験の状況について、ご講演いただき、横紋筋肉腫委員会委員からも多くの質問があり、活発な議論が行われました。2023年11月には、バルセロナで行われた欧州European Paediatric Soft tissue sarcoma Study Group(EpSSG)のwinter meetingに参加し、欧州での臨床試験の現状について知見を得ることができました。
今後は、JRS-III試験について計画・立案を進めており、治療成績の改善、急性毒性や長期合併症を低減した治療開発に向けて活動していく予定です。