軟部と呼ばれる体の軟らかい部分に発生する悪性腫瘍で最も多い小児がんです。病名に「横紋筋」が含まれていますが、手足(四肢)や腹部・背部(体幹)の筋肉だけでなく、頭部や顔面の表面(頭頸部)、目の奥(眼窩)、頭部や顔面の奥(傍髄膜)、泌尿生殖器(膀胱、前立腺、睾丸(傍精巣)、子宮、膣、外陰部)、肛門周囲(会陰部)、肝・胆道、腹部の背側(後腹膜)など全身から発生します。年齢は、約3-4割が10歳未満で診断され、好発年齢ですが、思春期から成人まで広い年齢層に発症することが最近の検討でわかってきています。
横紋筋肉腫は全身に発生するため、初発症状は多岐にわたりますが、腫瘍ができた部位が腫れて痛くなったり、腫瘍が正常な臓器を圧迫したり閉塞したりすることによる症状が出ます。
具体的には、眼窩・頭頸部・傍髄膜・体幹・会陰部・四肢・傍精巣にできた場合、その部位が腫れたり、痛くなったりします。特に、眼窩にできた場合、眼の動きが悪くなることがあり、また、傍髄膜にできた場合、鼻閉、鼻汁の症状が出たりします。
泌尿生殖器、肝・胆道、後腹膜にできた場合、腹部膨満や便秘、尿が出にくくなるといった症状が出ます。特に、膀胱にできた場合に血尿、膣・子宮にできた場合、おりものや出血、肝・胆道にできた場合、黄疸が症状として出る場合があります。
2004年、我が国の横紋筋肉腫治療研究グループ、JRSGが結成され、全国的臨床試験(JRS-I)が開始されました。その後2015年に発足した日本小児がん研究グループ(Japan Children’s Cancer Group; JCCG)の疾患委員会の一つ、横紋筋肉腫委員会として、JRSG第二期臨床試験(JRS-II)が行われています。
横紋筋肉腫が疑われた場合、まず腫瘍の大きさ、所属リンパ節や全身への広がりを調べます。CT、MRI、PET-CT、骨シンチなどの画像検査、骨髄検査、傍髄膜にできた場合、髄液検査が行われます。先に腫瘍を切除して横紋筋肉腫の診断であった場合も上記と同様の検査を治療開始前に行います。
最終的に横紋筋肉腫と診断するためには、腫瘍そのものを手術で切除して、顕微鏡による観察(病理診断)を行います。横紋筋肉腫と診断された場合、胎児型か胞巣型のいずれであるかも治療を決定するうえで重要な情報となります。また、胞巣型に特異的に認められるPAX3-FOXO1やPAX7-FOXO1の融合遺伝子の検出も診断、悪性度の把握に重要となり、特にPAX3-FOXO1融合遺伝子を持つ腫瘍の予後は不良であることが知られています。
横紋筋肉腫には、病期分類として術前病期分類(ステージ分類)、術後病期分類(グループ分類)があります。術前病期分類は原発部位、原発腫瘍の大きさ、領域リンパ節転移の有無、遠隔転移の有無により決まります。術後病期分類は、手術による切除範囲、遠隔転移の有無により決まります。
術前、術後の病期分類を総合して、リスク分類が行われます。横紋筋肉腫では、治療の強さや期間は、このリスク分類に準じて行われるため、重要な分類となります。日本、米国、欧州でそれぞれリスク分類は異なっており、日本のJRS-II臨床試験では低リスクA群、低リスクB群、中間リスク群、高リスク群の4つに分類されています。
化学療法、放射線治療、外科療法を組み合わせて治療が行われます。これを集学的治療と言います。
化学療法は、全ての横紋筋肉腫症例において行われます。ビンクリスチン、アクチノマイシンD、シクロホスファミドからなるVAC療法が長期にわたり使用されてきました。脱毛、吐き気、腹痛・下痢などの消化器症状、血球が減ることによる感染症や貧血、出血傾向など、一般的な抗がん剤の副作用の他にも、ビンクリスチンによる末梢神経障害(手足のしびれ、あごが痛くなるなど)や便秘、アクチノマイシンDによる肝中心静脈閉塞症(肝臓の血管が詰まることでおなかに水がたまる、腹痛、呼吸が苦しいなどの症状が出ます)、シクロホスファミドによる出血性膀胱炎(膀胱から出血して尿に血が混じる)や性腺障害(将来思春期の成長が遅れることや不妊症の原因になります)など、多様な副作用が知られています。治療による合併症を減らすために、リスクに応じて抗がん剤の量を調整する工夫を行っています。
放射線治療は、横紋筋肉腫の治療において重要な位置を占め、ほとんどの症例で行われます。横紋筋肉腫は放射線治療が高い効果を示すので必要な治療ですが、成長障害や皮ふ・筋肉の障害、治療した部位にがんが起こりやすいなど長期的な影響が問題になります。経過に応じて放射線の線量を調整し、治療後も合併症が起きていないか経過観察する必要があります。
外科療法については、化学療法や放射線治療の開始前の診断時に切除できた場合、治療成績の改善や治療の軽減につながります。しかし、横紋筋肉腫において、診断時から外科治療が行われる場合は多くありません。これは、横紋筋肉腫は重要な臓器に接して発生する場合が多く、切除により強い機能障害や見かけ(整容面)の問題を生じることが多いためです。また、化学療法と放射線治療で治癒が可能であること、診断時では腫瘍が大きく切除が不完全に終わる可能性があることも理由として挙げられます。つまり、手術による合併症を減らし腫瘍を取りきるためには、出来るだけ化学療法や放射線治療で縮めてから切除することが重要だということです。経過中の画像検査を参考に、内科や外科、放射線科など多診療科による協議(キャンサーボード)により、手術を行うべきタイミングや切除する範囲などを決定します。
治療後は再発や治療による長期的な合併症がないか、画像検査や血液検査でフォローしていきます。横紋筋肉腫の治療成績は全体では約70%の患者が長期生存していますが、リスク群によって大きく異なり、低リスクでは90%近くの患者が長期生存しているのに対し、高リスク群では半数以上の患者が長期生存できていません。