白血病は、血液中の白血球が「正常な機能を持たないまま」「過剰に増殖するようになってしまった」病気であり、血液の悪性腫瘍(がん)です。
急性リンパ性白血病(ALL)は、白血病のうちリンパ球になるはずの細胞に異常が起こり、がん化した病気で、小児患者さんで最も多い白血病です。
急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia:ALL)は、小児がんの中で最も多く、小児ALLの日本国内での発生数は、年間450~500人と推定されます。治療法の進歩により、治癒が見込まれる小児ALL患者さんは90%に近づく一方、約10%の患者さんは残念ながら再発され、再発ALLの治療成績は依然として満足できるものではありません。
JCCG再発ALL委員会は、ALLが再発してしまった場合の治療方法について研究しています。大人の癌では、再発すると治らない、と考えるかもしれませんが、子どものALLでは再発した後でも、治療により治癒し、大人になって元気に働いている元患者さんもたくさんいます。少しでも多くの患者さんが治るように、そして後遺症なく治るように、より良い治し方を研究しています。
それまで地域ごと、施設ごとに別々に行われていた診断・治療を全国的な基準で統一するため、日本の各地域に根ざした4グループが一つにまとまって、2003年に日本小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG)が発足し、それと同時に再発ALL委員会も作られました。さらに、2014年には、固形腫瘍の治療研究グループとJPLSGが統合し、オールジャパンで一丸となった日本小児がん研究グループ(JCCG)が発足したことに伴い、再発ALL委員会もJCCG再発ALL委員会という名称になっています。
皆さま、こんにちは。JCCG再発ALL委員会の委員長を拝命いたしました、豊田秀実と申します。初代の鬼頭敏幸先生から、小川千登世先生、後藤裕明先生と続く委員長のバトンを受け継ぎ、小児再発ALLの患者さんやご家族に、よりよい治療を届けられるよう精一杯努力します。
ALLは小児でもっとも多い悪性腫瘍であり、その予後は着実に改善し長期生存率は90%に近づいています。しかし、約10%の患者さんは残念ながら再発され、小児再発ALLの治療成績は依然として満足できるものではありません。欧米では1980年代から小児再発ALLを対象にした臨床試験が行われ、治療成績も改善しつつありましたが、日本ではその治療実態や治療成績も長らく明らかになっていませんでした。2003年に発足した再発ALL委員会が行った全国調査では、日本における小児再発ALLの予後は不良で、特に早期再発や再発T細胞性ALL(T-ALL)の予後は著しく不良であり、小児再発ALLに対する治療開発は急務と考えられました。しかし、この調査では治療状況の詳細な情報を得るのは難しく、どんな治療が有効であるか、その傾向すら明らかにできませんでした。
そこで、小児再発ALLに対する治療開発が先行していた欧州の治療プロトコール(ALL-REZ BFM95/96)を骨格として、一部に予後良好群が含まれる非T-ALLの中間リスク群を対象に、治療反応性により移植適応を決定する臨床試験(ALL-R08-II)を2009年6月から開始しました。また、早期再発や再発T-ALLといった高リスク群に対しては、諸外国にも満足できる成績のものはありませんでしたので、日本における小児再発ALLの全体像の把握を目的とした前方視的観察研究(ALL-R08-I)も同時に行いました。ALL-R08研究により、小児再発ALLに対する欧州のリスク分類は予後予測に有用であること、寛解導入療法終了時に微小残存病変(MRD)陰性となった患者さんは、化学療法単独でも良好な予後が得られることが、本邦においても明らかになりました。
さらに、T-ALLに対し有効性が期待される薬剤であるネララビンが使用可能になったことを受けて、難治性の再発T-ALLを対象として、ネララビン、フルダラビン、エトポシドを用いた寛解導入療法の安全性と有効性を検証するALL-RT11試験を、2011年12月から開始しました。ALL-RT11試験により、ネララビンを含む多剤併用化学療法は、安全に行えることが明らかになりました。
ALLを含む、がんに対する標準治療を開発するためには、多くの患者さんに臨床試験に参加していただく必要があります。ALL-R08研究やALL-RT11試験では、日本国内の患者さんを対象にして研究を行ってきましたが、日本で発生する小児再発ALL患者さんの数は年間40~50名ですので、標準治療確立のために必要な登録患者さんの数を得るためには、長い年月がかかってしまいます。そこで、小児再発ALLに対し世界標準の治療法を確立するため、2014年10月から国際共同研究であるIntReALL SR 2010試験に参加しました。参加国全体で695名の患者さんにご登録いただいた大規模な研究で、日本からも39名の患者さんにご参加いただきました。この結果、小児再発ALLの標準リスク(中間リスク)群に対する世界標準治療を確立することができました。ただ、IntReALL SR 2010試験により確立された標準治療は、治療による免疫力の低下が強いため、感染症をはじめとする有害事象が多く発生するという欠点があり、効果はそのままで、副作用を軽減した治療法の開発が必要です。
ALL患者さんの予後の改善には、よりよい治療法の開発をするとともに、ALL細胞を詳しく調べて創薬につなげることも大切です。そのため、再発ALL委員会では2015年12月からALL-R14研究を行い、再発あるいは難治のALL患者さんの白血病細胞を収集してバイオバンク化し、研究に利用できる基盤を構築しました。
今まで小児再発ALLに対しては、抗がん剤により白血病細胞だけでなく正常細胞も破壊する汎破壊的治療が行われてきましたが、成長障害・不妊・二次がんといった晩期合併症が深刻な課題となっています。近年ALLに対する新規治療は目覚ましい発展を遂げ、T細胞を用いた免疫療法であるCAR-T療法、小児ALLの多数を占めるB細胞性ALL(B-ALL)が発現するCD19と、免疫細胞であるT細胞のCD3を結合させることによりB-ALL細胞を死滅させるブリナツモマブ、さらにB-ALLが発現するCD22に対する抗体に抗がん剤を結合させた抗体薬物複合体のイノツズマブ・オゾガマイシンが使用可能となりました。そこで、再発ALL委員会では、2021年12月からブリナツモマブを用いた寛解導入療法の安全性と有効性を評価するALL-R19-BLIN試験を開始し、現在登録していただける患者さんを募集しています。
これら有望な新規治療薬の登場により、再発ALL治療には大きな変化が起こっています。新規治療薬は、従来の抗がん剤による治療とは異なり、がん細胞をターゲットにした標的治療ですので、晩期合併症低減やQOLの維持が期待できます。これからも再発ALL委員会では、小児再発ALLの患者さんやご家族に、有害事象や晩期合併症を軽減した有効な治療法を届けられるよう、メンバー一丸となって努力してまいります。皆さまのご理解、ご支援をどうぞよろしくお願い申し上げます。
三重大学小児科 豊田秀実
2022年12月 | 第64回米国血液学会において、IntReALL SR 2010試験の結果が報告されました。 |
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2022年11月 | 第64回日本小児血液・がん学会学術集会において、ALL-R14研究の結果を発表しました。 |
2022年11月 | Cancer Science誌にALL-R14研究のALL細胞マウス移植モデル(Patient-derived xenograft: PDX)ライブラリーの成果が掲載されました。 |
2021年12月 | ALL-R19-BLIN試験を開始しました。 |
2020年11月 | International Journal of Hematology誌にALL-RT11試験の結果が掲載されました。 |
2018年11月 | 第50回国際小児腫瘍学会において、ALL-R08試験の結果を発表しました。 |