固形腫瘍:神経芽腫

神経芽腫の概要

神経芽腫は白血病や脳腫瘍に次いで多い小児がんで、1歳以下で発症することが最も多く、大部分は5歳以下で発見されます。 神経芽腫のできやすい部位は、副腎といわれる腎臓の頭側にある臓器や、交感神経節と呼ばれる背骨の両側にある神経由来の組織です。交感神経節は首から骨盤まで続いているので、お腹の部分だけでなく、首(頚部)、胸(胸部)、骨盤から発生することもあります。しかし、半数以上の方は腫瘍が転移を起こし、転移による症状で発見されます。たとえば、骨への転移による手足の痛みのために歩き方がおかしくなったり、目の奥の骨に転移すれば瞼が腫れたりします。発熱や顔色不良、不機嫌、元気がないなど漠然とした症状が続くこともあります。

神経芽腫の症状

お腹の腫瘍が大きくなれば、お腹全体の腫れとして気づかれ、お腹を触った時に硬いしこりを触れるようになります。健診で偶然に見つかる、あるいは胸のレントゲン写真を撮った時に偶然発見されることもあります。しかし腫瘍が進行して転移を起こし、転移部位の症状をきっかけに発見されることも多いです。たとえば、骨に転移すれば、頭のこぶ、目の腫れ、手足の痛み、などで発症します。痛みをうまく訴えられない子供の場合は、歩き方がおかしくなったり、歩かなくなったりすることで気づかれることもあります。骨髄にも転移を起こしやすく、骨髄転移の場合は顔色が悪くなったり(貧血)、青あざ(出血斑)ができやすくなったり、微熱が続いたりします。

日本での治療研究

2006年には国内のほぼ全域の施設が参加する形で日本神経芽腫研究グループ(JNBSG)が設立され、すべての神経芽腫を対象とした臨床研究が開始されています。現在その活動は、日本小児がん研究グループ(JCCG)の神経芽腫委員会に引き継がれています。

神経芽腫の検査

1.血液・尿検査

神経芽腫は、カテコラミンという物質を作る腫瘍で、この物質を血液中へ放出します。この結果、血液中のノルエピネフリンというホルモンの検査値が正常より高くなり、神経芽腫の徴候とされています。また、血液中のカテコラミンは分解されて、バニリルマンデル酸(VMA)、ホモバニリン酸(HVA)となり尿中へ排泄されます。この結果、尿中のVMAとHVAが正常より高くなることが特徴です。したがって、尿中のVMAとHVAを測定することが診断に有用となります。その他に血液検査ではNSE、LDH、フェリチンなどが高値を示すことがあります。

2.画像検査

画像検査には超音波検査、レントゲン検査、CT(コンピュータ断層撮影法)、MRI(磁気共鳴画像法)、核医学検査があります。
神経芽腫は腹部超音波検査や胸部レントゲン検査で偶然みつかることもあります。また、MRI、CTは腫瘍の発生場所や周囲の臓器や組織との関係を鮮明に映し出すことができ、転移部位の診断にも有用です。核医学検査にはMIBGシンチと骨シンチがあり、MIBGシンチは神経芽腫に特異的に取り込まれるため、診断、転移部位の判定、治療効果の評価に役立つ重要な検査です。骨シンチは骨転移の診断に有用です。

3.生検と病理診断

生検は腫瘍組織の一部を手術などで採取する手技のことで、大変重要な検査です。 採取した腫瘍組織は専門の病理医が顕微鏡により観察して確定診断(病理診断)を行います。さらに国際病理分類(INPC分類)という国際的に認められた共通の基準により、予後良好群と予後不良群に分類し、リスクの判定に用います。

4.骨髄検査

神経芽腫は骨髄に転移をしやすい腫瘍であり、微小な骨髄転移は画像検査では見つけることができないため、骨髄を直接採取して調べることが必要です。

神経芽腫のリスク分類

一般に神経芽腫は臨床病期、年齢、腫瘍細胞内のMYCN遺伝子のコピー数、国際病理分類、腫瘍細胞内の染色体の数(プロイディ)の5つの予後因子を用いて、4つのリスク群(極低リスク、低リスク、中間リスク、高リスク)に分類し、リスクに応じて治療法を選択します。

神経芽腫の治療・治療成績

極低リスクの腫瘍を持つ患者さんは無治療で退縮や分化する場合があります。また、手術のみで治療できます。低リスクは最も治りやすいグループで、約9割の患者さんが手術のみの治療で治ると考えられています。残りの1割の患者さんは比較的弱い化学療法が必要ですが、全体でも90から100%の患者さんが長期生存します。
中間リスクは手術と低リスクより強い化学療法が必要です。これにより全体で70から90%の患者さんが長期生存します。治療に伴う合併症も見過ごせないことから、合併症を少なくし、治療成績をもっと向上させることが課題となります。
高リスクは最も治りにくいグループで、治療法の中心は化学療法です。最も強い化学療法と造血細胞移植を併用した超大量抗がん剤療法、放射線療法、抗体療法が行われることが一般的です。手術は補助的な役割となります。このような強力な治療にもかかわらず、全体の長期生存は約50%であり、生存率を改善することが最大の課題です。

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