急性骨髄性白血病(AML)の解説

どんな病気?

白血病は、血液中の白血球が「正常な機能を持たないまま」「過剰に増殖するようになってしまった」病気であり、血液の悪性腫瘍(がん)です。白血病細胞は自然になくなることはありませんので、治療をしないと下記の症状が進行し、命にかかわります。
急性骨髄性白血病(AML)は、白血病のうち、骨髄芽球(白血球のうち好中球などの骨髄系細胞に分化する未熟な細胞)に異常がおこり、がん化した病気です。さらにAMLのうち、前骨髄球という細胞が異常に増殖する急性前骨髄球性白血病(APL)と、ダウン症候群に発症する骨髄性白血病(ML-DS)は、病気の性質や治療内容が異なるためそれぞれ別個の疾患として扱うことが多いです。
日本における小児急性白血病患者さんの1年間の発生数は、急性リンパ性白血病(ALL)がおよそ500-600人、AMLがおよそ160人とされています。

どんな症状が出るの?

白血病細胞が骨髄(血液を作る工場)にできると、増殖する白血病細胞で血液を作る力が抑えられてしまうため、正常な血液の細胞(白血球・赤血球・血小板)が減ってしまいます。
正常な白血球は主に免疫力を担っています。ですので、少なくなってしまうと、「感染症にかかりやすくなる」「感染症が治りにくくなる」「通常の免疫力があればかからないような感染症になる」などの症状が出ます。白血病と診断された時には、白血病細胞が血液の中にもたくさんみられることがあります。白血病細胞は通常の血液検査では白血球に数えられてしまいますので、診断された最初のころ白血球の数はむしろ多くなっていることもありますが、正常な白血球は減っていることがほとんどです。
正常な赤血球は主に酸素を運搬する働きをしています。酸素は細胞が機能するために必須なので、少なくなってしまうと、いわゆる「貧血」の症状として顔色が悪くなり、だるさやめまいなどが現れます。過度に少なくなると、体の臓器が正常に機能することができなくなってしまいます。
正常な血小板は主に出血を止める役目を果たしています。ですので、少なくなってしまうと血が止まりにくくなり、大量に出血してしまったり、重要な臓器(脳など)に出血をしてしまったりすることがあります。
そのほかに、白血病細胞が骨髄の中で増えることにより骨が痛くなることがあります。また、リンパ節や肝臓・脾臓に白血病細胞がたまることによって大きくなり、首や足の付け根などにしこりができたり、お腹が膨らんで見えたりすることがあります。また、特にAPLでは凝固・線溶機能(血液を固まらせたり溶かしたりする機能)のバランスが崩れることで播種性血管内凝固という状態になり、出血症状が目立つことがあります。
それぞれの症状の程度は個人差がありますので、すべての白血病の方に同じ症状がでるわけではありませんが、白血病細胞は自然になくなることはありませんので、治療をしないとこれらの症状が進行し、命に関わる状態になってしまいます。

どんな検査をするの?

骨髄検査(マルク):白血病と診断するためには骨髄の中で白血病細胞が増えていることを確認する必要があるため、骨髄検査を行います。一般的にはおしりの骨である腸骨に針を刺して骨髄血を採取します。採取した骨髄血を顕微鏡で見ることで、白血病かどうか、ALLかAMLかなどを判断することができます。さらに、白血病細胞の表面に出ているタンパク質の検査(フローサイトメトリー)や染色体・遺伝子検査などによって、より正確に診断すると同時に、白血病細胞の性質の詳細な分類(リスク分類)を行います。また、骨髄検査は治療開始後にも効果判定のために何回か行います。
腰椎穿刺(ルンバール):脳や脊髄のまわりには脳脊髄液という透明な液体がめぐっています。白血病患者さんの中には、診断時から脳脊髄液の中に白血病細胞がいたり、再発時に脳脊髄液の中に白血病細胞が出てきたりする人がいます(中枢神経浸潤)。この中枢神経浸潤を確認するために、腰の背骨のあたりから針を刺して脳脊髄液を採取して検査を行います。この時に後述の髄注を一緒に行うことが一般的です。ただし、ML-DSでは中枢神経浸潤は極めてまれであるため、腰椎穿刺や髄注は行わないことがほとんどです。
その他にも、骨髄以外に白血病細胞の塊がないかを確認するためにレントゲン、CT、MRIなどを行ったり、治療の経過で効果や合併症を確認するために血液検査を行ったりします。

ステージは?治りやすさの違いは?

これまでの白血病の治療研究などの成果により、白血病細胞の性質を調べることで、白血病の「治りやすさ」「治りにくさ」が推定できる(リスク分類)ことが分かっています。そこで、最初に白血病細胞に様々な検査を行います。AMLでは主に染色体検査・遺伝子検査の結果がリスク分類を決める上で重要ですが、結果は後日わかるため、まずは共通の治療を開始し、検査結果が分かってから治療の強さを調整します。さらに、初期の治療により白血病細胞があまり減らない場合も、治療を強化したほうがいいことが分かっています。急性骨髄性白血病の治療は、もっとも強度を減らした治療でも副作用はかなり強いものであり、白血病細胞の「てごわさ」を予測して治療の強度を調整する(リスク分類や層別化といいます)ことが、白血病の治療でとても大事です。日本では低リスク・中間リスク・高リスクの3群に分けることが多いです。
その他、古くから用いられている急性白血病の分類方法として、顕微鏡での白血病細胞の見た目によるFAB分類があります。FAB分類ではAMLはM0からM7まで分けられます。この数字はいい・悪いという意味ではなく、一般的に現在はリスク分類に用いられることはありません。ただしM3のほとんどはAPLにあたり、はじめに述べたように別個の疾患として治療します。

どんな治療をするの?

白血病を治すためには、薬を使った治療(=化学療法)を行います。AMLではシタラビンとアントラサイクリン系抗がん剤などを組み合わせた多剤併用化学療法が世界的な標準治療です。日本ではエトポシドという抗がん剤も加えることが多いです。また、背中から針を刺して、抗がん剤が届きにくい中枢神経対する治療・予防のために脳脊髄液に抗がん剤を直接注入する治療(髄注)も行われます。
ML-DSの場合、化学療法が効きやすい一方で副作用が強く出やすいため、使用する抗がん剤のタイプはダウン症候群以外のお子さんのAMLと同じですが、使用する量を減らして治療します。
APLはかつて非常に予後の悪い疾患でしたが、全トランス型レチノイン酸(ATRA)という薬を使うことで劇的に予後が良くなることがわかり、現在は標準治療になっています。さらに、三酸化ヒ素(ATO)という薬を組み合わせて使うことにより従来の抗がん剤を使用せずに治療ができることが成人患者では分かっており、国外では小児APLでもATRA+ATOが標準治療になっています。

まず、これらの治療により、白血病細胞が骨髄から確認できなくなる「寛解」という状態を目指します。寛解に到達することは第一の目標ですが、寛解を達成してすぐに治療を中断すると、高い確率で再び白血病細胞が増えてくる(再発する)ため、寛解に到達した後も化学療法を継続し(強化療法)、残っている白血病細胞の根絶に向けて治療することが治癒に必要です。化学療法に対する治療反応性や白血病細胞が持つ遺伝学的特性によって、白血病の手ごわさを予測することが可能となっており、手ごわさに応じてリスク分類を行って、リスク毎に治療の強さや期間を調整します。また、化学療法のみでは治癒率が低いと考えられる患者さんには、白血病細胞の特性に合わせた標的療法を行うこともあります。通常の化学療法で治りにくい場合には、骨髄移植などの造血細胞移植が行われます。

どんな合併症があるの?

抗がん剤で生じうる一般的な副作用は以下の通りです。

骨髄抑制、吐き気・嘔吐、下痢、口内炎、脱毛、発熱、感染症、薬に対するアレルギー、心臓・肝臓・腎臓・膵臓などの障害、二次がんなど
また、特にAMLの治療で使用する薬剤に特徴的な副作用は以下のとおりです。
シタラビン:シタラビン症候群(シタラビン投与後の発熱、筋肉痛、骨痛、皮疹、結膜炎など)
アントラサイクリン系抗がん剤:心筋障害
エトポシド:二次がん

副作用に対してはできるだけ予防する対策を行い、実際に起こった場合は速やかに適切な対処を行います。副作用の多くの場合は適切な予防・対応により重症化を防ぐことができ、その多くは一時的なもので治療が終われば回復します。しかし、重篤な副作用をきたす可能性もあり、なんらかの症状を後遺症として残してしまうことや、命にかかわることもあります。また、内分泌障害や不妊、二次がんなどは、治療が終わった後に何年もたってから発生してくることがあります(晩期合併症)。これらの詳細については「支持療法」「長期フォローアップ」の項をご覧ください。

どんな治療研究があるの?

白血病の治療成績をよりよくするために、国内外で「臨床試験」が行われています。臨床試験は日本を含めた世界各国で行われており、それらの結果をもとにして新たな臨床試験を計画することを繰り返して白血病の長期生存率は大きく向上しました。
現在JCCGで実施中のAMLの臨床試験のうち登録可能なものは以下の通りです。各臨床試験の詳細な内容や、試験に参加できるかどうかに関しては担当医にお問い合わせください。

AML-20:初発AML患者のうち、中間リスク群・高リスク群に対する抗CD33抗体製剤(ゲムツズマブオゾガマイシン)の有効性と安全性を確認する臨床試験です。ゲムツズマブオゾガマイシンは現在日本では再発・難治性AMLにのみ保険適応の薬剤ですが、国外では初発AML患者に対する有効性も示されており、小児患者に対しても標準治療に取り入れているグループがあります。
AML-R15:再発AMLの病態解明を目的とした臨床試験です。再発AMLの予後は不良であり、再発・難治に関わる病態の解明のために再発患者さんの検体を収集し、様々な研究・解析を行います。

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